小笠原・海底火山噴火の軽石 35年前は湘南到達 自治体、警戒と困惑

1986年の小笠原諸島・福徳岡ノ場の海底火山噴火で平塚海岸まで流れ着いた軽石=平塚市博物館

 小笠原諸島「福徳岡ノ場」の8月の海底火山噴火で生じた軽石が海上を漂流し、沖縄や鹿児島に大量に流れ着き、漁業や観光に大きな被害が出ている問題。35年前に同じ場所で起きた噴火では、軽石が千キロ以上離れた神奈川の平塚海岸など相模湾一帯にまで流れ着いた記録もあり、今回も11月末にも関東地方沖合へ到達する可能性がある。

 神奈川県内の沿岸に軽石漂着も予測され、地元の漁業関係者や行政機関には「有効な対策手段も分からない状況」に困惑と不安が広がる。

◆博物館に残る軽石

 記録に残る20世紀以降、今回を含めて4回の新島を形成する規模の大規模噴火を繰り返した福徳岡ノ場。平塚市博物館では1986年1月の噴火により平塚海岸まで流れ着き採取された軽石15片が所蔵されている。

 軽石は噴火から5年後の91年9月、同市虹ケ浜で行われた市博物館による海岸観察会の最中に当時の学芸員らが偶然発見。台風通過の直後、波打ち際から40メートル陸地に入った場所に大量の軽石が帯状に打ち上げられていたという。

 箱根火山の白い軽石とは異なり、灰色の石に黒い玄武岩の大粒の結晶が混じり込み、表面にはサンゴも付着していた。当時の市博物館などによる調査で同様の軽石は、大磯港(大磯町)から城ケ島(三浦市)と静岡県伊東市から熱海市までの一帯に広く漂着したことが判明。そのうち一部を化学分析したところ、福徳岡ノ場の岩質と一致した。

◆量、桁違い

 当時の海底火山噴火でも一時的に新島が形成されたが、2カ月ほどで波に浸食され消滅。流れ出した大量の軽石は噴火4カ月後に琉球列島に漂着し、黒潮に乗って紀伊半島の潮岬まで到達。一度、流れ着いた軽石が台風によって再漂流し、5年がかりで2千キロ以上を旅して相模湾までたどり着いたとみられる。

 市博物館の野崎篤学芸員は「今回は噴火の規模も観測史上最大レベルで流出する軽石の量も桁違い。今回は短期間で漂着する可能性が高い」と警鐘を鳴らす。

 一方で86年の噴火による相模湾での漁業被害は報告されていない。平塚市漁業協同組合の担当者は「軽石の被害も記憶にない。これからの季節は北からの風が増えるので本当に軽石が来るかどうか…」と半信半疑の様子だ。小田原市水産海浜課も軽石漂着に備えて地元漁協との話し合いを始めたばかり。市担当者は「港をオイルフェンスで封鎖するにしても本当に効果があるのか分からない」と頭を抱える。

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