<金口木舌>海洋を漂うのは

 ウミガメがふ化する瞬間に立ち会ったことがある。たくさんの子ガメが砂から飛び出し、海に向かって前進する。生まれたばかりの小さな命が必死に生きようとする姿は感動する

▼砂から出た子ガメは、白波に反射するわずかな光を頼りに海を目指すという。街灯など人工的な光があると向かうべき場所を見失う。人間がつくり出す環境の変化が生命を脅かすこともある

▼沖縄美ら海水族館の調査によると、沖縄本島周辺のウミガメの約20%が海洋ごみを誤食していた。ビニールやロープ、釣り糸などが体内から見つかった。私たちが捨てたごみは海に流れ出て、海洋生物の健康を害している

▼北谷町の海岸で保護され、その後に死んだウミガメの体内には大量の軽石があった。海底火山の噴火で発生した軽石を誤って飲み込んだのだろう。海洋ごみに加えて新たな災難に見舞われている

▼軽石は県内の漁港やビーチに漂着して、水産業や観光業に打撃を与える。各地で行政や地域住民、ボランティアが撤去を進める。次々と押し寄せる軽石は人々の暮らしを脅かす。1日も早い対策と撤去が求められる

▼軽石の問題を考える時、はるか沖合の状況にも目を向けてほしい。海にはごみも漂っている。普段の生活を見直し、ごみを減らせば海の環境と生き物を守ることができる。それは軽石の撤去と同じくらい大切なことだ。

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