eスポーツジム、オンラインツアー付き弁当、アトツギソン コロナ禍ばん回の鍵は新規事業にあり 各社の挑戦を見る【コラム】

ずらり並んだゲーミングパソコン。画面はオリジナルですね(画像:東京メトロ)

鉄道事業者の2021年度前半の考課表に当たる、2022年3月期の第2四半期決算が出そろいました。各社の決算短信には厳しい数字が並んでいます。考えてみれば2021年4~9月、東京や大阪といった稼ぎどころのエリアは、ほぼ緊急事態宣言だったわけで、当然といえば当然すぎる結果ですが、それでも何らかの対応は必要。運賃値上げや減便のニュースが聞こえてくるようになりました。

そうした〝縮小的な均衡〟とは別に、新規事業や新しいサービスの創出に突破口を求める事業者やグループ企業ももちろん数多くあります。ここでは肩のこらないトピックスとして、東京メトロの「eスポーツジム」、ルミネのオンラインツアー付き弁当「おととめし」、京浜急行電鉄の「アトツギソン」の3題を取り上げます。共通のキーワードは、「新しい視点での(沿線)価値向上」です。

コンピューターゲーム ビジネス化すればeスポーツ!?

eスポーツはエレクトロニックスポーツの略で、電子機器を使う娯楽、競技、スポーツ全般を指すそう。コンピューターゲームやビデオゲームを、スポーツ競技としてとらえる際のネーミングです。

とはいえ最近の新語・流行語らしく、分かる方には当たり前すぎ、分からない方には何のことやらさっぱり。私は、「ゲームセンターを最新技術でビジネス化したもの」と自分なりに解釈しています。

東京メトロはeスポーツに新規事業として本格参入することを決め、2021年11月11、12日に東京都内で開かれた「レジャー&サービス産業展2021」のセミナーに、企画価値創造部の森井亮太新規事業担当社員が講師として出席しました。

セミナー終了後、聴講者と名刺交換する森井さん(右)。eスポーツをはじめ新規事業を担当します(筆者撮影)

赤羽岩淵駅を「eスポーツ駅」に

少し前の有楽町線延伸でも話題になりましたが、東京メトロの収入のシェアは鉄道事業88.0%、関連事業11.9%で、他の鉄道事業者に比べ関連の割合が低いのが特徴です。メトロの路線は多くが地下を走るため、一般の鉄道会社のように地上に駅ビルを建てにくい環境にあります。

eスポーツ参入のきっかけは、2019年度に実施した「Tokyo Metro ACCELERATOR(東京メトロアクセルレーター)」。新規事業のパートナーを見付けるプログラムで、eスポーツ教育事業を展開する東京のスタートアップ(ベンチャー)企業・ゲシピへの資本参加が決まりました。

eスポーツ事業の市場規模は専門出版社の調べで、2018年に48億円だったのが、2021年は推計86億円、2024年には184億円を見込みます。世の中にはeスポーツ専門学校やeスポーツカフェもあるよう。東京メトロは、限られたスペースで事業展開できる点などを評価して進出を決めました。

第1号店の「eスポーツジム赤羽岩淵店」は、コロナで予定より遅れましたが、2021年6月28日、東京都北区の南北線赤羽岩淵駅隣接地に開業しました。47平方メートルの店内には、ヘッドセットの付いた12台の専用ゲーミングパソコンが並びます。

eスポーツジム赤羽岩淵店は駅入り口に隣接します(画像:東京メトロ)

紹介のところで書き忘れましたが、eスポーツは対戦型ゲームというのがゲームセンターとの違い(ゲームセンターにも、もちろん対戦型ゲーム機は数多くあります)。スポーツとして勝敗が付き、老若男女を問わず楽しめチームを組めます。

森井さんは、「世界規模で人気を集めるeスポーツを普及させ、東京の魅力を高めたい」の思いを語りました。鉄道事業との関係では、ジムでのeスポーツ教室開催で移動需要が創出できます。「近い将来、赤羽岩淵駅を『eスポーツの駅』として定着させたい」と夢を広げます。

一心不乱にゲーム……ではなくスタッフとのコミュニケーション求める

赤羽岩淵店開業から4ヵ月、来店客の客層などから「ベテランより小中学生が多い」、「常連客の満足度は高い」、「来店客はスタッフとのコミュニケーションを求める」といった傾向が分かってきました。

「ゲーム機に無言で向き合い、ひたすらバーを操作する」というのは、私のようにeスポーツを知らない人の誤解。例えは適切でないかもしれませんが、東京オリンピックで日本選手が活躍したスケートボード、元は遊びだったわけで、東京メトロの新規ビジネスが定着すれば、やがて「メトロのジムからメダリスト」が誕生するかもですね。

赤羽岩淵店のスペックは、営業時間平日15~22時、土日曜日と休日11~23時。ゲームは「リーグ・オブ・レジェンド」、「ぷよぷよeスポーツ」など5種類。東京メトロの冠大会などの構想もあります。

ちなみに、鉄道事業者によるeスポーツ施設の先行例としてはJR東日本グループのJR東日本スポーツが2021年1月、JR松戸駅に開業した「ジェクサー・eスポーツステーションJR松戸駅店」があります。

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郷土料理とオンラインツアーで出雲への旅気分

ルミネがJR東京駅で開催した「聴いて旅する幕の内 おととめしmeets出雲」発表会では、テレビ会議システムで現地とつなぎ、生産者のこだわりなどが披露されました (筆者撮影)

続いては、コロナ禍の新しい旅のカタチ、オンラインツアー(シェア旅、リモート旅とも)の新機軸。JR東日本グループで、新宿、大宮などで駅ビルを運営するルミネは、地方の食材とオンラインツアーをセットにした新タイプの弁当「聴いて旅する幕の内 おととめしmeets出雲」を、期間限定で発売しています。

ルミネがコロナ禍の2020年に始めたのが、オンラインツアー「旅ルミネ」。新潟県佐渡島や群馬県中之条町への仮想の旅を催行しました。2年目の新商品が「聴いて旅する幕の内 おととめし」。2021年5月の山形県最上編に続き、10~11月に島根県出雲編を企画しました。

幕の内弁当は、料理研究家の三原寛子さんらが考案。出雲の郷土食のちらしずし「すもじ」をアレンジし、干しアナゴの燻製や出雲産ショウガで炒めたインゲン、カブの古漬け、ニンジンとビーツのマリネなど彩り鮮やかに添えました。

ルミネはおととめしで出雲に興味を持った人たち向けの地域産品の宅配セット「旅じたくBOX」も用意します。出雲に旅してほしいという思いでネーミング。中身は「秘密」とのことです(筆者撮影)

包装紙のQRコードで旅サイトにアクセス

オンラインツアーで面倒なのは、旅サイトへのアクセスですが、新しい弁当は包装紙に2次元QRコードを印刷。スマートフォンで読み取るだけで、出雲の画面が現れ旅気分に浸れます。

ツアープログラムは、FM放送局やラジオドラマ脚本家が共同で制作。神々の国の神社境内に響く音やシジミ漁の音、現地の人の声などが約20分の朗読劇としてスマホから流れます。

弁当はルミネ大宮であす2021年11月21日まで、その後ルミネ北千住で11月24日から30日まで販売されます。ちなみに、出雲はJR東日本のエリア外ですが、鉄道ファンには説明不要の夜行寝台特急電車「サンライズ出雲」が東京ー出雲市間を直結します。ルミネや島根県の地元は、もちろん来訪に期待します。

三浦半島の中小企業 跡継ぎや新商品のヒントを探る

ラストの京急・アトツギソンは、「アトツギプロジェクトin三浦半島」が正式名称。神奈川県横須賀市、葉山町と組んだ地域振興イベントです。「中小企業を応援し、三浦半島を盛り上げる」が合い言葉。アトツギソンは跡継ぎやマラソンからネーミングしました。

京急の地域振興イベント「アトツギソン」のメーンビジュアル(画像:京急電鉄)

開催は2021年11月5~7日の3日間。家族経営の中小企業は世にゴマンとあるわけですが、子どもが跡を継ぎたがらなかったり、事業そのものの見直しが必要といった課題も多く、専門家がアドバイスしたり、協業のパートナーを見付けるのがアトツギソンです。

京急が主催者に名を連ねたのは、もちろん沿線の活力アップが目的。当日の様子を事務局の横須賀市経済部に聞いたところ、地元の中小企業や飲食店と、スタートアップ企業との間で活発に情報交換。横須賀市内の飲食店がプロ仕様の設備を導入して冷凍食品製造に乗り出すなど、新規事業のタネがしっかり根付いているようです。

記事:上里夏生

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