【伊原春樹・新鬼の手帳】今年の日本シリーズは〝評論家泣かせ〟の試合が連日のように続いている。裏を返せば、それだけ白熱の大熱戦ばかりということだ。終わってみれば、この日(第5戦=25日、東京ドーム)も3試合連続となる1点差ゲームでオリックスが土俵際で踏ん張った。
勝敗のことはさておき、あらためて末恐ろしい存在だなと感じたのはヤクルトの4番・村上宗隆内野手(21)だ。
4回先頭の第2打席、追い込まれてから甘く真ん中に入った真っすぐを逆方向の左中間スタンドへシリーズ2号となるソロ本塁打を叩き込んだ。6回も二死から得点にこそ結びつかなかったものの内角へのチェンジアップを巧みにとらえ、右翼線のライン際へ運んで三塁打。一方でこの日の相手先発・山崎は立ち上がりから徐々にペースを上げていき、非常にいい内容でヤクルト打線から見ると攻略は難しいように思えた。
ところが、この主砲・村上は第2、第3打席ともに気持ちよく、いとも簡単にクリーンヒットさせて長打へと結び付けた。相手の配球をしっかりと見極め、狙い球を見逃さない選球眼にも成長が感じられる。
まだ、プロ4年目の21歳。それでいながらも、まるで10年選手のような〝ふてぶてしい風格〟がすでに身についている。打席に入るとドシっとした構えから、いかにも打ちそうな雰囲気と独特のオーラを全身から放ち、相手投手に凄まじい威圧感を与える。極めて短絡的な表現かもしれないが、これはチームの4番打者にとって非常に大切な要素だ。
この日本シリーズでも試合中、ベンチ内で彼はひと際目立つぐらいに大きな声を張り上げ、チームメートたちを常に鼓舞している。また、この第5戦でも見られたが、守備の際にも正三塁手として先発投手のもとへ駆け寄り、よく声をかけている。どちらかと言えば、私はこういうエネルギッシュなプレーヤーは好きなタイプの選手だ。
チームは敗れたが、若き主砲として悔しさを胸に燃える思いを新たに抱いたことだろう。第6戦以降も引き続き村上には注目していきたい。
(本紙専属評論家)