第七十九回「本当にロックンロールしていたストリート・スライダーズのヒリヒリ感」

想い出の音楽番外地 戌井昭人

最近、ザ・ストリート・スライダーズを、よく聴いています。そして、スライダーズのYouTubeばかり見ています。 それにしても改めてYouTube凄い。昔々、小滝橋のLOFTがあった近くのビデオ屋は、ビデオの並んだ棚から、海賊版なのか、正規のものなのか、外国の放送をダビングしまくったものなのか、とにかく出所のよくわからない音楽ビデオをたくさん販売していたのですが、それを勝手に引っ張り出し、棚に挟まっている小さなテレビで試しに見ることができました。それにしても、あのころ、店にずっといて店員に煙たがられながらも、必死になって見ていた、ニック・ケイブとかトム・ウェイツのビデオを、いまは簡単にYouTubeで見ることができます。まったく凄い時代になったもんです。当時の苦労はなんだったのかと思えてきます。 でもって、そのビデオ屋に通っていたころ、邦楽では、ザ・ストリート・スライダーズをよく聴いていました。とにかく、ヒリヒリしていて、ロックンロールとはこういうものなのだと体現できるようなバンドで、ライブも観に行ったことがあります。 でも、20代半ばになったら、まったく聴かなくなっていました。それで、また、50歳になって聴いています。この前、紹介した村八分もそうだけれど、自分の中で、勝手なリバイバルブームが起こっているようです。 それにしても、スライダーズって、あそこまでロックに邁進して、雰囲気もロックで、ロックンロールで格好つけていたバンドって、いまとなっては貴重だと思います。メンバーの名前だって、ハリー、蘭丸、ジェームス、ズズだし、さらに、あの髪型に化粧、なんだか現在ではギャグになってしまいそうだけど、やっぱり、どう見ても格好いいのは、本当にロックンロールしていたからで、あれをリアルタイムで体現できたわたしは、とても贅沢だったのではないかと、いまになって思えてきます。 そんでもって、勝手にスライダーズリバイバルになって、いろいろ検索してたら、ボーカルのハリーこと村越弘明さんは、いま、肺ガンの治療をし、復帰に向かって、病と闘っているそうです。ハリー! 頑張ってください! バシっと復帰して、あのヤバい声と歌を、また聴かせてください! 個人的に、ストリート・スライダーズで一番聴いたアルバムは、『SCREW DRIVER』かもしれません。今回あらためて聴いてみたら、ほとんど歌えました。 とにかく名曲ばかりです、「ありったけのコイン」とか、「かえりみちのBLUE」、思い返せば、車のカセットでよく聴いていました。 やっぱり、スライダーズは、見た目や雰囲気もあるけど、楽曲がとんでもなくいいのでした。わたしだけ勝手にリバイバルしていないで、若者が、どんどんスライダーズをコピーすれば、またあのヒリヒリロックの時代が蘇るかもしれません。

戌井昭人(いぬいあきと)

1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。2016年には『のろい男 俳優・亀岡拓次』が第38回野間文芸新人賞を受賞。

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