静野孔文(監督)- 映画『さよなら、ティラノ』映画を含んだ作品世界を楽しんでいただければとても嬉しい

子供から大人まで楽しめる作品になっている

――映画『さよなら、ティラノ』は宮西達也さんによる絵本が原作の映画ですが大人でも楽しめる深い内容でビックリしました。

静野(孔文):

原作絵本が読み返すたびに新しい発見がある奥深い作品なので、そこはアニメでもしっかりと描かなければいけないと感じて制作しました。その思いが伝わっていて良かったです。

――最初に原作を読まれた際の印象を伺えますか。

静野:

恐竜と言うだけで子供たちはワクワクすると思いますが、それだけではなく異種族でも踏み込めば分かり合えるんじゃないかや親と子の話など、描かれているテーマが奥深く凄く魅力てきな作品だなと感じました。監督目線で言うとそのテーマをどこまで原作の良さを損なうことなく映画化できるか、そこが一番重要なポイントだと思いました。なので、手塚プロダクションさんにはシナリオライターは1人ではなくチーム制でお願いしました。

――実際にシナリオは佐藤大さん・うえのきみこさん・福島直浩さんの3名ですね。

静野:

佐藤さんたちにはチームで色々とアイデアを出していただきました。そのアイデアを何重にも多重構造で重ねることで子供から大人まで楽しめる作品になっているんだと思います。

――ただ、ファミリー向け作品なのでお話しが難しすぎてしまうと子供たちがついて来れなくなり、本来届けたいファンにテーマを伝えることが出来なくなるので物語のバランスのとり方が難しかったのではと思いますがいかがでしょうか。

静野:

おっしゃる通り小さな子たちにテーマを100%伝えるのは難しいかもしれませんが、子供たちにはまずキャラクターデザインや動き・ティラノとの友情という部分で楽しんで感動してもらえればいいと思いました。そして、付き添いできたお父さん・お母さんには別の面で感動してもらえたらという形で作っています。

――実際に私が想像していた恐竜よりもポップなキャラクターで、作品全体の色使いが鮮やかで可愛いかったです。恐竜たちが絶滅していく終末に向かっていく世界ですが、それを過剰に感じない綺麗な画でした。今作のデザインに関してはどのように進められたのでしょうか。

静野:

アニメーション化する際、宮西先生にデザインをどうすべきかを相談に乗ってもらいました。ティラノサウルスシリーズは3作目のアニメ化という事もあり、先生自身が「アニメーションはアニメーションらしい描き方でやってもらうことが、素晴らしい作品になる。」という事をおっしゃっていただけ、江口(摩吏介)さんのデザインもすぐにO.K.を頂けました。カラーリングに関しては、本作が絵本原作なので子供たちに見てもらえるようビジュアルは明るく楽しく感じていただけるようにしました。あまり重たすぎると子供向けではなくなってしまうので、そこは作画・背景・音楽とスタッフみんなに助けられました。

ティラノとプノンのドラマがより鮮明になった

――今作の音楽は坂本龍一さんが担当されています。アニメ作品の音楽を担当するのは『オネアミスの翼』以来という事ですが、オファーはどういう形でお声掛けしたのでしょうか。

静野:

手塚プロダクションが坂本さんと交流があるという事で、ダメもとでお願いしてくれ快諾をいただけました。

――実際に曲をオーダーする際はどのように作品世界を共有されたのでしょうか。

静野:

その時に出来上がっていたストーリーボードを見てもらいながら私の方で説明して、物語の流れ・テーマをお伝えしました。絵コンテが出来た際にそれを撮影して、大体の流れ・尺がわかるフィルムをお渡しそこに音楽をあてていただきました。

――実際の作品の尺に合わせて楽曲を制作された形なんですね。

静野:

はい。楽曲制作に入っていただいた段階ではまだコンテ撮影のフィルムで完成していたものではなかったのですが、ポイントを合わせてもらえれば動きに合う構成になりますという形で曲を作っていただけたので、坂本さんのコダワリをそのままフィルムに落とし込むことが出来ました。

――音楽もバッチリとシーンに合っていたこともあって、作品全体のテンポ感もすごく良かったです。

静野:

ありがとうございます。

――個人的にはゴッチとルッチの2人がお気に入りで、観ていて懐かしさも感じる面白いキャラクターでした。

静野:

私もお気に入りのです。子供に笑ってもらえるキャラですし、彼らが居るからこそハッピーエンドを感じてもらえたと思います。ゴッチとルッチを置くことで主役であるティラノとプノンでは語り切れない部分を客観視でき、より強いテーマ性が生まれティラノとプノンのドラマがより鮮明になったと思います。

――2人も主人公たちとともに大きく成長したキャラクターでしたね。成長という面で言うとティラノとプノンはトラウマを抱えてそれに立ち向かい乗り越えていきますが、その描き方も素晴らしかったです。

静野:

2人のトラウマは子供には刺激が強いものでショックを与えてしまうとも思いましたが、動物の世界というのは厳しい状況で弱肉強食のなか多くの種族が共存しているというのは真実なのでそこに嘘はつきたくなかったんです。そのため、ややハードな物語になってしまいました。

――子供たちには少し重い部分もあるかもしれませんが希望はあるんだよということがわかるので、子供たちにとってもドラマとして楽しめる作品だと思います。そのドラマを支えているキャストのみなさんの演技も素晴らしかったです。どのようにキャストのみなさんを選ばれたのでしょうか。

静野:

キャストに関しては色々なアイデアがありました。選んでいく中でエグゼクティブプロデューサーのカン(・サンウク)さんから「海外で吹き替えをする際にその感情・演技がしっかりと伝えられるように実力派のキャストを揃えて欲しい。」というオーダーをいただいき実力派のみなさんに演じていただくことになりました。

――本当にみなさん演技力が確かな方ばかりでした。現場ではどういったディレクションをされたのでしょうか。

静野:

実力としては申し分ない方たちなので、ほぼお任せでした。ただ、プノンは最後のクライマックスに向けて怒り・憎しみ・哀しみと色々な感情が立て続けに入ってくるので、そこの表現は何度かすり合わせをして演じていただきました。石原(夏織)さんは勘のいいかたなので瞬時に対応していただけました。

宮西先生の世界に浸っていただきたかった

――とても丁寧に作られていることがスクリーンからも伝わってきました。本作はいつ頃から動き出していた作品になるのでしょうか。石塚(運昇)さんがご存命の頃ですと3年以上になると思いますが。

静野:

『GODZILLA』3部作を作っている時に同時に作っていたので、4年以上になりますね。海外展開を見据えていた作品という事もあって、完成後にも編集作業があって完成したフィルムからカットしている部分もあります。

――再編集をしていることを感じない丁寧なドラマなのでビックリしました。その話を伺うとディレクターズカット版を観たい気持ちになります。

静野:

その機会が出来るといいですね。釜山国際映画祭では1度ノーカット版を上映したので、台風が上陸して会場が屋外だったので(笑)。

――では、お客さんもちゃんと見れない状況だったんですね。

静野:

そうなんです。坂本さんの曲も暴風でかき消されてしまったので、もったいなかったです。

――宮西先生は完成した作品を観られたのですか。

静野:

宮西先生には観ていただいただけでなく、OPのナレーションは先生自身に読み聞かせの声を充てていただきました。

――そうだったんですね。

静野:

本作では兎に角、宮西先生の世界に浸っていただきたかったんです。宮西先生の声で始まり、原作の絵で終わる形にしています。完成した映画を観て宮西先生は笑顔でいてくださったので、合格点はいただけているんじゃないかと思います。

――宮西先生の声、坂本さんの音楽、実力派キャストのみなさんの演技、そして綺麗な映像世界と魅力的なドラマ、改めて映画館の大きなスクリーンと音響で観たい作品だと思いました。

静野:

そう言っていただけると嬉しいです。この映画は宮西先生の『ずっとずっといっしょだよ』という絵本を元に作りましょうという事から企画が始まりました。宮西先生からは「原作絵本と全く一緒にする必要はない」と言っていただけたので、ほかのティラノシリーズ作品からもアイデアはいただいてそのアイデアを詰め込んだ映画になっています。この作品を観ていただいて少しでも「感動した。」や「面白かった。」と感じていただけたなら、『さよなら、ティラノ』を通して宮西先生の原作に戻っていただけるとより深いティラノシリーズの魅力を感じていただけると思います。そうやって、映画を含んだ作品世界を楽しんでいただければとても嬉しいです。

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