国際宇宙ステーションが軌道変更を実施、25年前に生成されたデブリとの衝突リスク回避

【▲2021年11月に撮影された国際宇宙ステーションの外観。中央奥にドッキングしているのが無人補給船「プログレスMS-18」(Credit: NASA)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)とロスコスモスは12月3日、接近するスペースデブリ(宇宙ゴミ)との衝突リスクを回避するために国際宇宙ステーション(ISS)が予定外の軌道変更(デブリ回避マヌーバ)を実施したことを明らかにしました。

デブリ回避マヌーバは日本時間2021年12月3日16時58分に、ISSロシア区画の最後部にドッキングしているロシアの無人補給船「プログレスMS-18」のエンジンを使って実施されました。2分41秒間のエンジン噴射によってISSの飛行速度は秒速0.3m減速、高度は数百m低下し、NASAによるとマヌーバ実施後のISSの高度は422.6×416.5km(262.6×258.8マイル)となりました。ロスコスモスによると、デブリはマヌーバ実施から約2時間半後の日本時間12月3日19時33分に、ISSから最小距離3kmで通過したとみられています。

ISSにはコマンダー(船長)を務めるロシアのアントン・シュカプレロフ(Anton Shkaplerov)宇宙飛行士以下7名が第66次長期滞在クルーとして滞在していますが、NASAによるとマヌーバ実施によりデブリとの安全な距離が保たれたため、クルーに危険が及ぶことはありませんでした。また、12月8日には前澤友作さんらが搭乗する有人宇宙船「ソユーズMS-20」の打ち上げが予定されていますが、ロスコスモスによればソユーズMS-20の打ち上げとドッキングに影響はないとのことです。

【▲空中発射母機(写真はB-52、現在はL-1011で運用中)に懸架された「ペガサス」ロケット(Credit: NASA)】

NASAによると、今回ISSに接近したデブリは1990年代から運用されているアメリカの「ペガサス」ロケットの破片でした。ペガサスは固体燃料3段式の空中発射型ロケットですが、ペイロード(搭載物)の軌道投入精度向上やより高い高度への投入を可能とするために、燃料にヒドラジンを用いる一液式スラスターを搭載した第4段「HAPS」(Hydrazine Auxiliary Propulsion System)がオプションとして用意されています。

1994年5月に打ち上げられたペガサスではHAPSが用いられており、打ち上げ後も地球低軌道を周回していました。ところが打ち上げから2年後、今から25年前の1996年6月にこのHAPSが軌道上でブレークアップ(分解、崩壊)したことで、地上から追跡できるものだけでも700個以上のデブリが生成されたといいます。今回ISSが回避したのは当時生成されたデブリの1つ(衛星カタログ番号39915)とされています。

今回のデブリ接近とその回避は、一度生成されたデブリが四半世紀の時を経た後もリスクとして存在し続け得ることを明確に物語っています。衛星破壊実験の停止を含め、宇宙を利用するすべての国家や組織には地球周辺の宇宙環境を持続的に利用するための取り組みが求められます。

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Image Credit: NASA
Source: NASA / Roscosmos
文/松村武宏

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