後継者難倒産 累計350件、年間最多を更新の見込み(2021年1-11月)

 2021年1-11月の『後継者難』の倒産は、350件(前年同期比2.9%増)に達した。今のペースをたどると、年間最多だった2020年の372件を超える可能性も出てきた。全体の倒産(5,526件)に占める構成比は6.3%で、前年同期(4.7%)を1.6ポイント上回った。
 産業別では、最多はサービス業他の77件(前年同期68件)で、『後継者難』倒産の2割(構成比22.0%)を占めた。次いで、建設業68件(前年同期78件)、製造業61件(同54件)と続く。
 資本金別は、1千万円未満(個人企業他を含む)が184件(前年同期比1.6%減)で、構成比は52.5%(前年同期55.0%)と、半数以上を占めた。
 負債額別は、1億円未満が246件(同2.3%減)で、7割(構成比70.2%)を占めた。ただ、1億円以上5億円未満93件(前年同期75件)、5億円以上10億円未満8件(同7件)と増加し、小・零細企業だけでなく、中堅規模でも事業承継が経営課題となっている。
 『後継者難』倒産のうち、代表者の「死亡」は182件(構成比52.0%)、「体調不良」も109件(同31.1%)を数え、この2要因で全体の83.1%を占めた。
 全国の企業約400万社の代表者の平均年齢は、2020年末で62.49歳(前年62.16歳)と高齢化が進む。特に、中小企業は、代表者が経営全般を担うことが多く、代表者に不測の事態が生じた場合、事業継続に支障が生じやすい。また、業績が厳しい企業は後継者育成が後回しにされ、事業承継がスムーズに進まないなど、重大な経営課題になっている。

  • ※本調査は「人手不足」関連倒産(後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰)から、2021年(1-11月)の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)を抽出し、分析した。

『後継者難』倒産350件、倒産全体の6.3%を占める

 2021年1-11月の『後継者難』倒産は、350件(前年同期比2.9%増、前年同期340件)。負債1,000万円以上の倒産(2021年1-11月、5,526件)は、コロナ禍の資金繰り支援策の下支えにより歴史的な低水準で推移している。ただ、『後継者難』倒産は全体の6.3%(前年同期4.7%)で、前年同期より1.6ポイント上昇した。
 金融機関の審査は、財務情報だけでなく、事業の将来性などを含めて判断する「事業性評価」が定着している。そこでは後継者の「有無」が、大きなポイントになっている。
 だが、長引くコロナ禍で業績回復が遅れ、後継者の育成や事業承継への準備は先送りにしている企業は少なくない。また、高齢の代表者ほど長期的な経営ビジョンを打ち出せず、収益力、採算性などが落ち込み、事業へのリスクが高まっている。
 中小企業は代表者の高齢化とともに、事業承継への対応が急務となっている。

後継者難

【要因別】「死亡」と「体調不良」で8割

 『後継者難』倒産の要因別は、代表者などの「死亡」が182件(前年同期比22.1%増、前年同期149件)で最多。1-11月では2年連続で前年同期を上回り、2014年同期(159件)を超え、最多件数を更新した。構成比は52.0%で、前年同期(43.8%)より8.2ポイント上昇した。2018年同期(51.1%)以来、3年ぶりに構成比が50%台に。
 また、「体調不良」は109件(前年同期比9.1%減、構成比31.1%)で、2年ぶりに減少した。
 代表者などの「死亡」と「体調不良」は合計291件(前年同期比8.1%増、前年同期269件)に達し、2年連続で前年同期を上回り、最多を記録した。構成比は83.1%(前年同期79.1%)で、前年同期より4.0ポイント上昇した。
 そのほか、「高齢」は37件(前年同期比2.6%減、構成比10.5%)で、3年ぶりに前年同期を下回った。

後継者難

【産業別】10産業のうち、4産業で増加

 産業別では、10産業のうち、増加が4産業、減少は4産業、前年同期と同件数が2産業だった。
 最多は、サービス業他の77件(前年同期比13.2%増)で、1-11月では2016年以降、6年連続で前年同期を上回った。サービス業他では、広告業(ゼロ→5件)、建築設計業(1→5件)を含む学術研究,専門・技術サービス業が16件(前年同期7件)、美容業(2→4件)、旅行業(ゼロ→2件)を含む生活関連サービス業,娯楽業が10件(前年同期5件)などで増加した。
 そのほか、製造業61件(前年同期比12.9%増、前年同期54件)が2年連続、金融・保険業1件(前年同期ゼロ)、不動産業24件(前年同期比100.0%増、前年同期12件)が2年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。  増加率が最も大きい不動産業は、不動産代理業・仲介業(4→8件)、貸事務所業(2→6件)などで、増加が目立つ。
 一方、建設業68件(前年同期比12.8%減、前年同期78件)、卸売業59件(同1.6%減、同60件)が2年ぶり、農・林・漁・鉱業2件(同66.6%減、同6件)、小売業36件(同10.0%減、同40件)が3年ぶりに、それぞれ減少した。

後継者難

【形態別】破産の構成比が初めて90%台に

 形態別の最多は、「破産」の320件(前年同期比5.2%増、前年同期304件)で、1-11月としては、最多件数を更新した。『後継者難』倒産に占める構成比は91.4%(前年同期89.4%)で、前年同期より2.0ポイント上昇し、初めて90%台に乗せた。
 「特別清算」は17件(前年同期比112.5%増、前年同期8件)で、最多件数を記録した。
 「破産」と「特別清算」は合計337件(前年同期比8.0%増)で、構成比は96.2%(前年同期91.7%)に達し、『後継者難』倒産はほとんどが消滅型の倒産だった。
 一方、再建型の民事再生法は1件(前年同期2件)。会社更生法は、調査を開始した2013年以降、1-11月では発生がない。

【資本金別】1千万円未満が半数以上

 資本金別では、1千万円未満(個人企業他を含む)が184件(前年同期比1.6%減、前年同期187件)。『後継者難』倒産に占める構成比は52.5%(前年同期55.0%)と、引き続き半数以上を占めた。一方、1億円以上は前年同期と同件数の1件だった。

【負債額別】中堅規模での倒産が増加

 負債額別は、1億円未満が246件(前年同期比2.3%減、前年同期252件)。『後継者難』倒産に占める構成比は70.2%(前年同期74.1%)で、小規模倒産を主体とした推移が続いている。
 ただ、1億円以上5億円未満は93件(前年同期比24.0%増、前年同期75件)、5億円以上10億円未満は8件(同14.2%増、同7件)で、それぞれ2年連続で増加した。中堅規模の企業でも、事業承継の問題は顕著となってきている。

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