マーヴィン・ゲイによる映画『野獣戦争』の過小評価されたサントラ

1970年代初頭、マーヴィン・ゲイ(Marvin Gaye)は、自分の考えに基づいて音楽を作っていた。特に、1971年に発表した画期的なアルバム『What’s Going On』が大成功を収めた後は、モータウンと100万ドルの契約を結び、それまで以上にクリエイティブなコントロールができるようになったことも少なくなかった。そんな彼が次に行ったことは、前作のサウンドを繰り返すことではなく、映画のサウンドトラックに手を広げることだった。これがアルバム『Trouble Man』が生まれたストーリーだ。

自分自身をコントロールできるようになり、ほとんどすべての曲を自分で書けるようになったマーヴィンは、ロバート・フックス主演、アイヴァン・ディクソン監督の低予算のブラックスプロイテーション・クライム・スリラーで、『黒いジャガー(原題:Shaft)』や『スーパーフライ』などの成功作に続く作品となることを期待されていた『野獣戦争(原題:Trouble Man)』のために作曲する機会を得た。

この映画は今日ではほとんど記憶されておらず、マーヴィン・ゲイのサントラも彼の作品の中でも過小評価されていると言えるだろう。また、『What’s Going On』と、その9カ月後のロマンスを重視した『Let’s Get It On』という歴史的な二つの名作の間に発売されたこともその原因かもしれない。

『Trouble Man』は1972年12月8日にリリースされ、アメリカでは最高14位まで上昇し、チャートには21週ランクインした。この成績は53週もランクインした『What’s Going On』には及ばないとしても、このアルバムが再訪する価値のあるものという証左の一つであろう。

ハリウッドの手招き

モータウンがデトロイトのヒッツビル・スタジオを閉鎖した後、マーヴィン・ゲイは当初、西海岸に移転しようとするレーベルと一緒にロサンゼルスに行くことには消極的だったが、その後ロサンゼルスに移住することになった。そこで生み出された『Trouble Man』のアルバムでは、マーヴィン・ゲイがソウルの代表者としてだけでなく、ジャズやブルースの作曲家としての手腕をも発揮し、アルバムとスコアを別個のものとして扱っている。

2012年に40周年記念のリイシューが発売されてから、この2つの違いが十分に理解できるようになった。冒頭のメインテーマは、サックスを中心としたビッグバンドスタイルで、自信に満ちた音色を奏でており、スコアの多くは雰囲気のあるインストゥルメンタルで、当時の映画のような雰囲気を醸し出している。

このアルバムのグルーヴ感のあるタイトル曲「Trouble Man」は、全米シングルチャートで7位、R&Bで4位にランクインした。

Written By Paul Sexton

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