<南風>思い起こす日

 12月8日は、太平洋戦争の開戦記念日である。今年はその開戦から80周年となる。4年後に日本は無条件降伏で終戦を迎えるのだが、思い起こせば戦場になった東南アジア、太平洋の国々には現地住民はもとより、移民した日本人が数多く在住していたのだ。

 父の郷里平安座には、フィリピン・パナイ島引き揚げ者でつくるイロイロ会というのがあった。20代の働き盛りにパナイ島で漁業をしていた人たちだ。私は何度か聞き取り調査で会ったが、1度、同会の「戦争を語る集い」に呼ばれて行った。集いは毎年12月8日に行われるという。話をまとめる。

 あの戦争で運命が狂った。あの日から漁業も思うようにできず、日本軍の占領下では通訳、道案内に徴用される。近しいフィリピン人がゲリラとして捕まった時の通訳が一番恐ろしかった。米軍上陸後は山中での生活。それで最後は、身一つでの引き揚げだ。だから、戦争が始まったその日のことを決して忘れてはいけない。

 無念の引き揚げであったろう。戦後海外からの引き揚げ者総数は、民間人だけでも300万人余という。

 小中学生の頃、ラジオの歌謡番組で聴いて覚えた曲の中に「かえり船」があった。「波の背に背に揺られて揺れて/月の潮路のかえり船…」のフレーズ。なかにし礼著『歌謡曲から「昭和」を読む』を読んで、あっと思った。かえり船とは引き揚げ船のことで、昭和21年11月の作だという。

 いきなり話は飛ぶ。

 2023年は郷土の作曲家、宮良長包の生誕140年に当たる。私たちは長包メロディーになじんできたが、全国的にはあまり知られていない気がして、いかにも残念だ。「芭蕉布」や「島唄」などの沖縄歌謡のように、美しい長包メロディーの数々をもっと広くアピールしなければ、と思う。

(新垣安子、音楽鑑賞団体カノン友の会主宰)

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