いながきの駄菓子屋探訪72 他人の店を引き継いだ旭川市「駄菓子店きしだ」

全国約400軒の駄菓子屋を旅した「駄菓子屋いながき」店主・宮永篤史が、「昔ながらの駄菓子屋を未来に残したい」という思いで、これまで息子とともに訪れた駄菓子屋を紹介します。今回は、他人から引き継いだ駄菓子屋とクリーニング店を兼業する北海道旭川市の「駄菓子店きしだ」です。

クリーニング店と兼業の駄菓子屋

北海道第2の都市、旭川市。旭川駅から南東へ3kmほど行ったところにある住宅街、東光地区で、クリーニング店と兼業の駄菓子屋を見つけることができました。子どもの頃に自分が通っていた駄菓子屋の中で、最も家から近かったのは、この組み合わせ。懐かしさ、うれしさとともに、たくさんの思い出が蘇ってきます。

北海道の街中の交差点は、進行方向によって名前が違うので旅人は非常に混乱するのですが(笑)、東光4条2丁目と書かれた、信号のある交差点の角にお店があります。間口が広く、入り口がたくさんあるように見えますが、開いているのは左側だけ。お店に入ると左半分が駄菓子売り場で、右側がクリーニングの受付になっていました。

北海道のご当地おやつ、「ビタミンカステーラ」も

コの字に配置された棚には、ほとんどの駄菓子が元箱のまま陳列されています。きれいに整っていて、品物がたくさんあるのにスッキリとした印象。おもちゃやくじ引き、冷蔵庫には飲料もあり、駄菓子屋らしい構えです。北海道のご当地おやつ、「ビタミンカステーラ」も販売されていて、「牛乳と一緒に食べるのが良いですよ、パサパサなので(笑)」とのアドバイスをいただきました。

店主の名は「きしだ」ではない

「駄菓子店きしだ」という店名ですが、店主の名字は湯浅さん。不思議に思いましたが、お店の成り立ちを伺うと、とても興味深いエピソードを聞くことができました。駄菓子店きしだは元々、岸田さんというおばあちゃんがこの場所で長らく運営していた、地区に唯一残っていた駄菓子屋。平成19年(2007年)ごろ、岸田さんはお子さんたちと暮らすため、物件を売却して転居することになったそうです。それを購入したのが、湯浅さんのお姉さん夫婦だったとのこと。

引き渡しの際、「今まで来てくれてた子どもたちのこともあるから、駄菓子屋も引き継いでくれない?」と岸田さんに打診されたお姉さん夫婦。湯浅さんはその話を聞き、駄菓子屋に特に思い入れはなかったものの、「時間に余裕があったので」と、ご自身で引き受けることにしたそうです。

駄菓子屋だからこそ感じられるやりがいがある

「子どもの頃に駄菓子屋に通ってたとか、そういうのもなかったので、まったく感覚がつかめなくて最初は大変でした。初日は、来た人みんなに『誰なの?』と言われましたよ(笑)。常連の子たちがいろいろ教えてくれたおかげで、なんとかなった感じです。子どもたちの成長を感じたり、頼られたり、感謝されたり……駄菓子屋だからこそ感じられるやりがいがあって、楽しい仕事ですよね、駄菓子屋って」

駄菓子屋を継いだあと、近所のクリーニング店が閉店することに。その際も「引き継いでもらえないか」と相談され、引き受けて現在の業態になったそうです。物腰が柔らかく、言葉の使い方もとても丁寧で、何でも受け止めてくれそうな湯浅さん。さまざまなお話が舞い込んでくるのも、なんとなくわかる気がします。駄菓子屋は、家族間でも継業することがあまりない業界。駄菓子店きしだはそんな中、まったくの他人が引き継いだという、貴重な経緯を持ったお店でした。

駄菓子店きしだ

住所:北海道旭川市東光4条2丁目3-12

電話:0166-39-3200

営業時間:月~土10:00~18:00、日祝13:00~17:00

定休日:不定休

[All photos by Atsushi Miyanaga]

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