60代夫婦「高齢になって資産管理ができなくなるのが不安」今やっておくことは?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、60代のご夫婦から。高齢になるにつれ資産の管理ができなくなることに不安を感じているといいますが、いざという時に困らないために、今からやっておくべき対策は? 公認会計士・税理士の伊藤英佑氏がお答えします。


60代半ばの夫婦です。共働き公務員でしたので、老後の資金的な不安はありませんが、高齢になるにつれ資産管理ができなくなるのでは、と不安が募ります。資産をどのようにしておけば安心できるでしょうか。

【相談者プロフィール】

・女性、64歳、無職

・夫:66歳、会計年度任用職員、月収10万程度

・子ども:32歳、29歳

・夫婦の親は90代だが施設介護及び通所介護で、費用も含め介護の負担はない

・住居の形態:持ち家(マンション・東京都)

・毎月の世帯の手取り金額:年金込みで52万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:35万円

・毎月の世帯の支出の目安: 27万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):預貯金2,000万円

貯蓄型保険(解約返戻金)1,000万円

・現在の投資総額:4,000万円

・現在の負債総額:2,700万円(住宅ローン2軒目)

伊藤:ご相談ありがとうございます。現在60代半ばのご夫婦が、「老後の資金的な不安はないが高齢になるにつれ資産管理ができなくなるのでは」と心配をされているというご相談について考えていきたいと思います。

まずは口座を必要最低限に集約する

ご相談者は共働き公務員で、年金収入や夫の仕事の収入の範囲内で生活費も収まっており、預貯金2,000万円、貯蓄型保険(解約返戻金)1,000万円。それ以外に現在の投資総額4,000万円と約7,000万円の金融資産をお持ちで比較的余裕もあり、堅実な生活が伺えます。まだご夫婦とも60代でお元気なことかと推察いたします。

このような状況で、今後起こり得ることなどを踏まえながら、財産をどのように管理していくかを考えていきましょう。

まずは、恐らく銀行や証券会社に口座等を複数お持ちかと思いますが、現時点や今後の用途などの必要性に応じて集約して必要最小限に減らしておくといいでしょう。

動くのもおっくうになった場合に不要な口座を管理したり解約する手続きを取るのも大変ですし、相続時の口座移管の手続きも口座の数だけ大変になりますので、早めに金融機関の口座は集約しておきましょう。

財産や連絡先の目録、遺言書を作成する

また、万が一の事故や相続の備えとして、財産がどこに何があるか整理や連絡先などの一覧も用意し、どこに保管してあるかも家族内で周知をしておくといいでしょう。エンディングノートなどを活用してもよいですね。

ただし、エンディングノートなどで気持ちを残しておくことに法的拘束力はありません。法的効力をもって相続後の財産を誰にどれだけ残すのかを決めておくには遺言が必要です。

民法の定める遺言証書には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の三種があり、いずれも要件を具備しないと無効になってしまいますので、遺言を残す場合は形式面も含めてきちんと作成しましょう。一旦作成して後から作成し直しすることも可能です。その場合、最後のものが有効となります。法務局に遺言書を預ける「自筆証書遺言書保管制度」もありますので必要に応じて活用されるといいでしょう。

現在の財産管理と資産運用をどうしていくか

ご相談者は以下のような財産債務をお持ちです。

・預貯金2,000万円
・貯蓄型保険(解約返戻金)1,000万円
・現在の投資総額 4,000万円
・現在の負債総額:2,700万円(住宅ローン2軒目)

投資の詳しい内容やご経験はありませんが、老後といってもまだまだ人生は長いので、限定的にリスクを取って投資をするのもいいかと思いますが、一般的にはあまりハイリスクな投資先に多くの資産を振り分けるのは避けた方がいいでしょう。

どのような老後生活をしたいのかをご夫婦で考え、不意に資産を失わないようにすることを第一に、また利益や配当などで資金に余裕があったら何に使いたいかよく話し合って方針を決め、それに合った資産運用をされることがいいかと思います。

ご自身でご経験や知見があり運用管理できれば理想ですが、そうでなければ、自分に合った方針で相談できる専門家を探すことも必要でしょう。

また、住宅ローンを大きく超える金融資産をお持ちです。ローン金利の支払いと投資運用の利回りやリスクと比較し、ローンの早期返済も一度検討されてもいいかもしれません。

団体信用生命保険(団信)に入っていれば死亡または所定の高度障害状態になったときに保険で債務が弁済されますので急いで返済することも不要かもしれません。民間金融機関の住宅ローンでは団信への加入が義務付けられていることが一般的ですが、独立行政法人住宅金融支援機構の「フラット35」では加入は任意となっています。

さらに、家族への財産の残し方や生前贈与や保険加入などの相続対策も検討されてはいかがでしょうか。

自身で財産管理することが難しくなるほどの状況になった場合に

今すぐに必要性はありませんが、今後、もし判断能力や意思決定能力に支障が出てきたような場合には、ご自身以外の方に財産管理の面倒を見てもらう可能性や、その場合の制度について頭に入れておくといいでしょう。

このような場合の高齢者の財産管理方法には、「家族信託」「財産管理等委任契約」「任意後見」「成年後見」の4つがあります。

これらの制度は、判断能力が低下の程度などに応じて財産管理の保護や自由度が大きく変わってきますので、状況や必要性に応じて検討が必要です。

喫緊の問題でもありませんので、ここでは各制度の詳細は説明を省略しますが、認知症などへの念のための備えや、そのような兆候が出てきた場合の可能性は想定し、頭の中には入れておくといいでしょう。

必ずしも必要ではないかと思いますが、信託銀行の信託サービスにも、一定の財産以上が対象で費用も掛かりますが、様々なものがあります。

また、困った場合は、信頼できて何でも相談できる専門家を探し、何かと頼ることも安心できる一つの方策になるかと思います。

これらを総合的に勘案し、ご自身がどうしたいか考え、安心して素敵な老後を過ごされることが望ましいかと思います。

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