県庁跡地

 ポルトガルの首都リスボンは、大河テージョの河口部に開けた港町だ。水辺に船の着く広場があり、街は丘に囲まれ、丘の斜面にびっしり家がへばりつく。坂の町でもある▲リスボンと長崎がそっくりなのは偶然ではない。長崎は16世紀に、貿易港を探していたイエズス会の宣教師とポルトガル人航海士が見いだした。町の建設には宣教師も参画した。成り立ちからして日本とポルトガルの国際事業だった▲文化的景観のポルトガル人専門家は「長崎の景観は日ポの文化が融合しており、世界的価値がある」と高く評価していた。普段住んでいる私たちの方が、世界が注目する価値に気付いていないようだ▲県庁跡地もそうかもしれない。1571年の長崎開港以来、イエズス会の教会、長崎奉行所西役所、県庁舎と、重要施設がずっと置かれてきた。長崎の歴史を象徴する核心の地である▲先月の開港450年イベントで開放された県庁跡地に足を運んだ。設置された物見台から、復元が進む出島が間近に見え、江戸時代の長崎にタイムトラベルしたような気分を味わえた。土地が持つ特別な力を実感した▲県は本年度中に跡地活用の整備構想を策定する。歴史的価値がかすむような活用法では元も子もあるまい。濃密な土地の記憶に思いをはせる場であってほしい。(潤)

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