長崎県知事選 中村氏出馬の舞台裏 「後継」決まらず決断

記者会見に臨む中村氏=県庁

 長崎県の中村法道知事(71)=3期目=が21日、来年2月の知事選への立候補をようやく表明した。選挙まで残り1カ月半となるまで態度を明らかにできなかったのはなぜなのか。水面下の動きを探った。
 今年10月、全国各地で衆院選の舌戦が繰り広げられるのをよそに、中村知事は一人苦悩していた。「次」の県政を託そうとしていた県幹部が、急きょ私的な事情で知事選に出馬できなくなったからだ。
 新たに「県の将来を担うにふさわしい人」(知事)を探すには時間が足りない。かと言っていまさら自分が4選を目指すことに周囲の理解が得られるのか。迷った末、本県選出の国会議員の協力を得て、後継探しにかじを切った。
 だがその作業は難航する。打診を受けた本県ゆかりの複数の中央官僚がいったん関心を示すものの、いずれも断ってきた。「人生を左右する決断を短期間でしろと言うのはどだい無理な話」。携わった関係者はこう述懐する。
 万策尽きたかに見えたが11月中旬、県の中堅幹部の名前が浮上。県議ら複数の関係者によると、知事の推薦だったらしい。渋る中堅幹部を複数で説得し、いったんは出馬を決意。根回しの時間が必要になり、知事の「不出馬」表明は定例県議会最終日の12月21日で固まった。
 11月30日、知事はこの動きをうかがわせるような本音を思わず漏らしている。農業団体から出馬を要請された際、「次のリーダーにバトンタッチするいいチャンス」などと応じた。だが中堅幹部も間もなく出馬を断念。「精神的に追い込まれた」「体調面に不安があったようだ」との情報が流れた。これ以降、知事の発言から「次のリーダーにバトンタッチ」との表現は消えた。
 「知事は本気で(中堅幹部を)説得したのか。実は自分が続けたかったのではないか」。関係者からは不満が漏れる。知事続投の理由としては、来春、政府に区域認定を申請するカジノを含む統合型リゾート施設(IR)がささやかれた。知事に近い関係者は「知事は中堅幹部が降りた後も後継を探したが見つからなかった。IRは九州の政財界の協力を得て進めており、自分の路線を引き継ぐ人がいない以上、無責任なことはできないと判断した」と明かす。
 その後、自民県議らが推す党県連幹事長の山本啓介氏(46)が知事の元を訪れ「後継」として名乗り出たが、知事は自らが出馬する意思を示したもよう。知事周辺は「山本氏とは政策のスタンスが異なると感じていたようだ」と話す。知事が出馬を表明した21日、山本氏は記者団に「ここまでにしたい」と断念する意向を明らかにした。
 知事は同日の記者会見で「『県の将来を担うにふさわしい方々』にお願いをしてきたのは事実。だが結果として誰からも手を挙げてもらえず、関係者に相談すると責任を持って県政を継続すべきだと意見をいただき決断した」と述べた。
 ある県議は嘆く。「いったんは辞めようとした人が出ざるを得ない。県内政界はそこまで人材がいないのか。閉塞(へいそく)感さえ覚える」


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