「コロナ破たん」に惑わされるな=2021年を振り返って(前編)

2021年を振り返って

 2021年も新型コロナウイルスに翻弄された1年だった。ただ、延期された東京オリンピック・パラリンピックが開催され、ワクチン接種も進んだ。年後半は新規感染者が急激に減少し、国内の経済活動もようやく動き出した。企業倒産は、官民一体となった強力な資金繰り支援の後押しで半世紀ぶりの低水準で終始した。
 こうした動きの裏側では何が起きていたのか。リスクマネジメントの観点から2021年を振り返り、2022年を展望する。

倒産件数は歴史的な低水準で推移、負債は増加の兆し

 2021年の全国企業倒産は、新型コロナウイルス対応の資金繰り支援が絶大な抑制効果を発揮し、歴史的な低水準で推移した。2021年1-11月までの企業倒産は、5,526件(前年同期7,215件)、負債総額が1兆575億2,200万円(同1兆815億2,800万円)だった。
 四半期ベースでは、1-3月期1,554件(前年同期比28.1%減)、4-6月期1,490件(同18.8%減)、7-9月期1,447件(同28.4%減)と、いずれも2ケタの減少率を見せた。12月も同様の推移をたどると、1964年(4,212件)に次ぐ57年ぶりの低水準が見込まれる。
 一方、負債総額も前年(1兆2,200億4,600万円)を下回る可能性が出てきた。負債1億~5億円未満、10億円以上の増加が年後半に目立ったが、同1億円未満が全体の約7割を占める点に変化はなく、余程の大型倒産が発生しない限り、前年を上回ることはなさそうだ。
 ただ、コロナ禍の影響は小・零細規模から中堅規模にも波及する兆しが見える。これを裏付けるように、11月の「新型コロナ」関連倒産は月間最多を更新し、全倒産に占める構成比は33.7%となった。3社に1社がコロナ禍に背中を押された格好だ。
 緊急事態宣言などの全面解除で企業活動は再開し、運転資金の需要が活発になる。だが、喜んでばかりいる訳にはいかない。これは「黒字倒産」を招きかねず、注意が必要だ。さらに、タイミングを合わせるように円安進行、原油価格の高騰、原材料・資材価格の上昇、物流停滞など、新たな懸念材料も顕在化するだろう。

今年を振り返って

コロナ収束で注目される事業の「抜本再生」

 企業が市場から撤退するのは「倒産」だけではない。「廃業」で経済活動の火をひっそりと消すケースもある。
 東京商工リサーチは、強力な資金繰り支援による倒産減少の副作用を探るため、2020年8月から「廃業検討率」の集計を始めた。企業アンケートを実施し、「コロナ禍の収束が長引いた場合、「廃業」(すべての事業を閉鎖)を検討する可能性」を定期的に集計した。
 コロナ感染「第5波」真っただ中の6月、中小企業の「廃業検討率」は8.2%で、今年ピークを記録した。国内には358万社の中小企業があり、単純計算で30万社近くが廃業危機に瀕していることになる。以降、感染が落ち着くに連れて数値は減少し、10月は6.4%となった。債務不履行などを引き起こす倒産と異なり、廃業は経営者が感じる「経済の体温」が大きな要因になっていることを伺わせる結果だ。
 一方、中小企業再生支援協議会や事業再生ADR、民事再生法などを活用した「抜本再生」を検討する可能性(抜本再生検討率)は、感染の落ち着きと連動していない。10月の調査では、中小企業の6.9%が「可能性あり」と回答。前回調査(8月)から1.3ポイント増加し、今年最高を記録した。
 コロナ禍が収束すると、資金繰り支援の活用で背負った債務解消への動きが本格化する。コロナが猛威を振るうなかでは将来予測ができないため、合理的な再建策を立案できず、返済棚上げで凌いだ企業も、今後は現実を直視することが必要になる。
 こうした状況を背景に、自力再建、事業譲渡、M&A、廃業、私的整理、法的整理など、企業はそれぞれの運命をたどることになる。

コロナ禍で足腰を鍛えた「地ビール業界」

 主な地ビールメーカー75社の2021年1-8月の総出荷量は6,601.6kℓで、前年同期比を7.7%上回った。前回(2020年)調査では、コロナ禍の影響を大きく受け、1-8月の出荷量が前年同期比25.1%減と大きく下回ったが、今年は巣ごもり需要の取り込みでネット販売に力を注いだメーカーも多く、出荷量は2年ぶりに増加した。
 地ビールメーカー各社は、香り、泡、炭酸、風味など、美味しいビール作りに力を注ぎ、消費者の巣ごもり需要を取り込んだ。1990年代後半の地ビールブームは、品質の伴わないメーカーもあり、すぐに萎んだ。だが、今回はブームを終焉させまいと地元産の穀物や野菜、果物などの原料を使い、地域振興と結びつく施策に取り組むメーカーが増えた。また、ふるさと納税の返礼品として地ビールを取り扱う自治体が増え、ブームは広がりと同時に、しっかりと地域に根付いている。
 メーカーの「本気」で作る地ビールが地域活性化の担い手の一つになる可能性を秘めている。

今年を振り返って

‌ブームが続く「地ビール」(TSR撮影)

コロナ禍の飲みニケーション

 コロナ禍でめっきり飲み会が減った。10月以降、制限が緩和されつつあるが、飲食店の営業は条件をつけられ、歓送迎会、忘・新年会は自粛の嵐が吹き荒れた。輪をかけるように、コロナ禍で飲み会が姿を消したことを歓迎し、アルコールで心を開く「飲みニケーション」にそっぽを向く若者も増えている。
 だが、情報交換やコミュニケーションを簡単に取れる飲み会、飲みニケーションの効果は、まだまだ大きい。コロナ禍ではオンライン飲み会が一時もてはやされたが、ほどなくして消え去った。仕事での「オンライン情報交換」は続くが、いきなり本題に終始し、横道にそれる話題や本当に知りたい突っ込んだ内容を聞けなくなった。やはり、そこはリアル飲み会にかなわない。飲み会では本来の効能ともいえる「横道にそれた話題」が意外にヒントとなり、次の取材のテーマとなることもある。
 逆風にさらされる飲み会だが、相互理解の手段として効果的であることは間違いない。いや、これはオジサンだからいう訳ではない。10月の緊急事態宣言明けに知人が企画した飲み会では「参加者がずいぶん増えた」と聞いた。定期的にオンライン飲み会は開催していたが、リアル飲みニケーションで「積もる話」に花が咲いたそうだ。
 オンラインで面談しても、共有したい情報は滓(かす)のように沈殿していく。やはり、皆どこかでリアルで会って情報を聞きたい、つながりを持ちたいと思っているようだ。

「コロナ破たん」に惑わされるな

 倒産取材の現場では、「新型コロナが影響した」とのセリフをよく聞いた。関係者へのヒアリングでは「枕詞」と化し、破産や民事再生の申立書でも常套句として使われた。だが、それに慣れると本当の原因を見誤る。
 2020年4月、ステーキ店を運営する(株)あさくま(TSR企業コード:400359235、JASDAQ)の子会社で、日本料理店の(株)竹若(TSR企業コード:292657242)が取引先に債権放棄を求めた。竹若は、あさくまがコロナ感染拡大の直前、2020年2月に子会社化したばかりだった。それから1年後にあさくまは「のれん減損」の計上を余儀なくされた。
 今年4月、竹若は債権者に休眠を通告した。しかし、「債権者集会」の質疑応答でリース会社が自社のリース物件の所在を尋ねると、竹若は「ダブルリースやオーバーリースなどの多重リースがあった」と明かし、会議は紛糾した。結局、竹若は8月末に東京地裁に破産を申請することになった。「破産申立書」では、「新型コロナウイルスの感染が広がり、売上に影響が出はじめ…」、「新型コロナウイルスの拡大に伴う緊急事態宣言が出され、飲食業界は大きなダメージを受け…」など、コロナに責任転嫁するような文言が並んだ。多重リースは、あさくまの買収前だったが、資産査定(デューデリジェンス)の内容を問う声も上がった。ましてや上場企業によるM&Aは、買収する方もされる方も信用に大きく影響する。コロナ禍だけが破たんの原因ではないだろう。
 9月に東京地裁から民事再生開始決定を受けた広島県の(社福)サンフェニックス(TSR企業コード:722070942)も波紋を広げた。介護施設などを広島県や東京都内などで展開していたサンフェニックスを、公認会計士の理事長(当時)が2016年4月に買収した。だが、買収後に法人の資金約30億円が社外に流出した。関係者はコロナ禍で入居率が低迷し、業績も悪化していたと語った。ところが取材を進めると、理事長が経営、または実質的に支配する数十社でグループを形成し、以前からグループ内で資金を循環させていた。買収されたサンフェニックスも、買収と同時にグループに組み込まれていたわけだ。すでにサンフェニックス以外にも複数の関係先が破たんしているが、次にどこが破たんするか、まだ予断を許さない。
 サンフェニックスの問題では、与信担当者が頭を抱えた。理事長が実質的に支配していた企業を把握できなかったからだ。役員は商業登記で確認できるが、株主など役員以外の人物が会社に影響力を持つと、一般的な審査では実態がみえなくなる。
 2022年1月末から実質的支配者を登録できる制度が始まる。2022年からの与信管理は、国内企業でも実質的支配者(BO)の把握が不可欠になる。

(続く)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年12月22日号掲載「2021年を振り返って(前編)」を再編集)

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