ピンク色のキッチンカーでカレー販売 元近鉄・大石大二郎氏が歩む第2の人生

近鉄で活躍した大石大二郎さん【写真:間淳】

大石さんは障害者の就労を支援する事業所「オルオル」を運営している

ピンク色の車に込めた思いは――。近鉄で4度の盗塁王に輝いた名二塁手・大石大二郎さんは、半年前にカレーを販売するキッチンカーを始めた。障害者の就労を支援する取り組みの1つで、厳しい現状を変えようとしている。

お昼時。鮮やかなピンク色のキッチンカー近くに、大石大二郎さんはいた。「いてまえ打線」の上位に座り、通算1824安打を記録。4度の盗塁王に3度のゴールデングラブ(当時はダイヤモンドグラブ)賞を獲得した走攻守3拍子揃った名選手だった。引退後は近鉄やオリックスなどで監督やコーチを歴任。現在はユニホームを脱ぎ、代わりにエプロンをつけて仕事をしている。

ピンク色のキッチンカーは、静岡市駿河区宮竹の就労継続支援A型事業所「オルオル」の駐車場に止まっている。水曜から日曜の週5日、午前10時半から午後2時までカレーを販売している。スタッフは「オルオル」に通う障害者。大石さんは「オルオル」を運営し、キッチンカーのスタッフをフォローしている。

「選手だった頃から障害者支援の活動に参加していて、現役を引退しても続けていきたいなと思っていました。静岡市のハローワークに聞いたら、就労支援で待機している障害者の人たちが800~900人いると。自分で会社をつくったら、何人かでも雇えるのではないかと思いました」

大石さんは6年ほど前、地元の静岡市駿河区で障害者の就労を支援する事業所「オルオル」を立ち上げた。就労継続支援事業所は一般企業での勤務を目指す障害者が、賃金を得ながら必要な知識や技術を身に付ける場所。雇用契約を結ぶ「A型」と、結ばない「B型」の2種類がある。「オルオル」には現在20人の障害者が通っており、主にプラモデルの袋詰め作業をしている。そして、大石さんは一般企業で勤務する可能性を広げるために、今年6月からキッチンカーを始めた。

「どんな業種でも人とのコミュニケーションは必要です。キッチンカーで人と対面で話す場をつくろうと考えました。経験を積めば接客業に就けるかもしれません。なかなかお客さんが増えないので、もう少し接客の機会が増えるといいんですけどね」

現在はピンク色のキッチンカーでカレーを販売している【写真:間淳】

「障害者の社会参加は、親御さんの助けにもなります」

キッチンカーの存在を知ってもらおうと、大石さんが自ら運転して出張する時もある。夏は地元の名産・イチゴを使った自家製スムージーをメニューに加えるなど、試行錯誤を続けている。

政府は障害の有無にかかわらず誰もが仕事を通じて社会に参加する「共生社会」を掲げて、今年3月に障害者の法定雇用率を引き上げた。民間企業には雇用する従業員のうち、障害者が2.3%以上になるよう義務付けられている。厚生労働省によると、民間企業の実雇用率は9年連続で過去最高となる2.15%。人数も前年より1万7000人余り増えて、57万8292人と17年連続で最多を更新した。

数字を見れば障害者の雇用は広がっているが、政府の目標値には届いていない。また、企業の規模によって格差がある。従業員が1000人を超える大企業では実雇用率が2.36%だったのに対し、100人未満の企業では1.74%にとどまっている。日本企業は99%以上が中小企業。大石さんは障害者雇用の厳しい現実を口にする。

「実際に障害者が一般企業へ就職するのは、なかなか難しい状況です。国は障害者の採用を企業に働きかけていますが、受け入れ態勢を取っている企業は少ない印象を受けます。障害者雇用について考える余裕がない企業が多いのではないでしょうか」

障害者雇用は経済面のサポートだけではなく、やりがいや生きがいも生み出す。「障害者の社会参加は、親御さんの助けにもなります。金銭的にも精神的にも大変な思いをされている方は少なくありません」と大石さん。事業所の名前にした「オルオル」はハワイ語で「心地良い」という意味がある。心地よく暮らせる社会の実現へ。ピンク色のキッチンカーには願いが込められている。(間淳 / Jun Aida)

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