ヒロシマからアフガン復興「諦めない」 草木も生えないと聞いていた被爆地、緑豊かに

ユニタール広島事務所が入るビル(左)と原爆ドーム=2021年12月14日、広島市

 イスラム主義組織タリバンが暫定政権を樹立したアフガニスタン。2021年8月に首都カブールが制圧されてから4カ月が過ぎた今も混迷した状況が続いている。数千キロ離れた日本でも、祖国を案じるアフガン人は少なくない。度重なる戦乱で傷ついた祖国を立て直そうと日本で建築工学を学び、現在は広島市にある国連訓練調査研究所(UNITAR、ユニタール)広島事務所で働くワリードさん(33)もその一人だ。「全く想像していなかった」事態に困惑しながらも希望は捨てず、アフガン女性の支援事業に携わっている。「未来を諦めず、自分に今できることをしたい」(共同通信=野口英里子)

 ▽留学生から国連スタッフに

 ワリードさんは、国際協力機構(JICA)の奨学生として2011年に初来日し、愛知県の豊橋技術科学大大学院で建築工学の修士号を取得。一時帰国した後、17年から再び広島大大学院に通い博士号を取った。卒業後の20年8月からユニタール広島に所属する。

 ユニタールは、若者の人材育成を目的とした国連機関。スイス・ジュネーブに本部を置く。広島事務所は、原爆被害から立ち上がった広島の経験を紛争後の国々に共有しようと03年に設立された。アフガニスタンは開所以来のパートナーだ。これまで延べ約3200人の政府高官らを受け入れ、組織運営や起業のノウハウを伝えてきた。このうち約700人が広島を訪れ、市内を見学したり被爆者と交流したりした。

アフガン支援を訴えるワリードさん=2021年10月6日、広島市

 ▽爆発音は日常茶飯事だった

 ワリードさんの日本での生活は通算7年が過ぎた。「好きな時に好きなところに行けることが何より楽しい」と語る背景には、自由が奪われてきた半生がある。

 祖国は1970年代から断続的に紛争に見舞われてきた。88年にワリードさんが生まれてからしばらくすると内戦状態に陥った。自宅近くに爆弾が落ちることは日常茶飯事。爆発音は耳に残り、今も花火の音に恐怖を感じるという。

 96年にタリバンが実権を掌握すると、厳格なイスラム主義体制が敷かれた。女性の教育や就労が制限され、男性は口ひげを生やすよう命じられた。娯楽も禁止に。内戦や干ばつで疲弊した経済は回復せず、小学生だったワリードさんは苦しい家計を支えるため、午前中で下校し工場で働いた。

 ▽13歳で迎えた「新時代」

 13歳だった2001年、米同時多発テロが起きた。旧タリバン政権はテロの首謀者をかくまったとして、米軍などの攻撃を受けて崩壊した。世界は一変。国のリーダーの姿がテレビに映るようになり、音楽も映画も楽しめるようになった。争いしか知らなかったワリードさんにとって「新しい時代の到来だった」。

広島市の原爆ドーム前で、ユニタールの職員(中央)から話を聞くアフガニスタンの女性たち(ユニタール広島事務所提供)=2018年

 その後、アフガンでは国際援助に支えられてインフラ整備が進んだ。「多くの子どもたちが建築家として国の復興に参画したいと夢見た。私もその一人だった」。現地の大学を卒業後、都市開発の道を究めるため、文化も宗教も異なる日本で学び続けることに決めた。

 ▽草木も生えないはずの広島が緑豊かに

 夢の実現に向け自信をくれたのが被爆地・広島だった。豊橋の大学院に通っていた12年、JICAのプログラムで初めて広島を訪れた。街の様子に目を見張った。原爆で破壊され「75年は草木も生えない」と聞いていたはずの街が、近代的で緑豊かな都市に変貌している。一方で、被爆者が語る体験や原爆資料館の展示に、常に死と隣り合わせだった自身の幼少期を重ね合わせた。

 ▽話し合い続けて

 建築工学の知見と広島での経験を、祖国復興に生かそう―。思い描いていた将来は、2021年8月15日のタリバン復権に伴う情勢の変化によって見えにくくなった。気候変動が引き起こした干ばつや、新型コロナウイルス感染拡大も相まって危機的状況が続いている。

アフガン女性向けの研修について記者会見するユニタール広島の職員=2021年12月14日、広島市

 中でも、かつて教育や就業を制限された女性たちは不安を募らせている。ユニタール広島は、彼女らの経済的自立を後押しするオンライン講座を準備している。クラウドファンディングで集めた約84万円を元手に、2022年3月までに開始する計画だ。ワリードさんは、受講希望者のニーズ調査や講師との調整役を担っている。

 「アフガンの人々は今、生きるために必要最低限の物さえ不足している」とワリードさん。「アフガンが孤立しないよう、国際社会はタリバンとの話し合いを続けてほしい。日本からも知恵と力を貸してほしい」

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