日本人初のMLB監督に? “プロ経験”なしでマイナー指揮、三好貴士氏の異色キャリア

ツインズ傘下で監督を務める三好貴士さん【写真:宮脇広久】

ツインズ傘下ルーキーリーグで監督を務める三好さん

世界的な知名度はなくとも、とてつもないことを成し遂げようとしている日本人がいる。MLB、NPBでの選手経験を一切経ずに、MLB傘下のマイナーリーグ球団で監督となった初の日本人、三好貴士(みよし・たかし)さんもその1人だ。

昨年ツインズ傘下のルーキーリーグの監督に抜擢され、今年も指揮を執った。メジャーリーグの監督の人選は、現役時代のキャリアや実績は関係なく、いかに指導者として経験を積んできたかを重視される傾向が強い。三好さんは“日本人初のメジャーリーグ監督”に近い男と言えるかもしれない。

「“日本人初”には全く興味がありません」。三好さんはキッパリと言い切る。「もともとスポットライトを浴びるのは好きではない。僕以外の人がやれるのなら、どうぞやってくださいという感じです。ただ、常にメジャーリーグ30球団のうち何球団かで、日本人が普通に監督を務めている状況をつくりたい。そのために個人のレベルでできることをやっていきたいと思っています」と熱弁を振るう。

NPBやMLBでの経験はなく、独立リーグを渡り歩いた

「だって、日本の野球は世界的に見て絶対、めちゃくちゃレベルが高いですよ。他の人種がメジャーで指揮を執っているのだから、日本人からも近い将来監督が出てこないといけない。日本の優秀な指導者がバンバン世界を回っていく方が、日本の野球界にとっても、世界の野球にとっても利益になると思います」と話す言葉には力がこもる。

シーズンオフには毎年帰国し、少年野球の指導や講演活動を行う。さらに今オフには、建設業などを営む「株式会社日本晴れ」が創設した社会人野球チーム「Nbuy(エヌバイ)」の臨時コーチに就任。来年から都市対抗出場を目指す新チームを指導している。既にツインズと来季契約を交わしたが、どのカテゴリーで指導にあたるかは正式に決まっていない。いずれにせよ、2月中旬から始まるスプリングトレーニングに合わせて渡米する予定である。

過去にも、NPBで活躍したOBがマイナーリーグにコーチ留学するケースはあった。また、かつて巨人でプレーした古賀英彦氏は1990年から3年間、1Aサリナスの監督を務めている。だが、三好さんのこれまでの歩みは大きく異なる。

神奈川の県立高校を卒業後に「英語は全く話せなかった」状態で単身渡米。モントリオール・エクスポズ(現ワシントン・ナショナルズ)がフロリダ州に開設していたアカデミーに入学し、6か月を過ごした。そこでスカウトされ、ニュージャージー州の短大に進学。その後、カナダ、オーストラリア、米国の独立リーグで7球団を渡り歩いて内野手としてプレー。底辺からメジャーリーガーを目指した。

ツインズ傘下で監督を務める三好貴士さん【写真:宮脇広久】

米球界での日本人指導者の少なさを嘆く「優秀な指導者がいるのに」

31歳の時、米独立リーグのビクトリア・シールズからコーチ就任の話が舞い込み、指導者の道へ。独立リーグ5球団で腕を磨き、2016年と2017年には、ソノマ・ストンパーズの監督としてリーグ最優秀監督賞に輝いた。2018年にツインズ傘下エリザベストンのコーチとして採用され、2020年からはチームの指揮官を任されるに至った。

「やはりコーチ留学では見えない、裸一貫で飛び込んで初めてわかる厳しさがあります」と語る三好さん。MLB傘下には現在、ほかに2人のコーチが存在する。今季までサンフランシスコ・ジャイアンツのブルペン捕手を務め、来季からアシスタントコーチに就任することが決まった植松泰良さんで、こちらは日本人初のメジャー常勤コーチとなった。もう1人は、今季ドジャース傘下のルーキーリーグでコーチを務めた石橋史匡さんだ。

「これだけの野球人口があって、優秀な指導者がいるのに、3人だけというのは比率的におかしいと思います。もちろん語学の問題もあるでしょうが、そんなものは飛び越えていきたい」と三好さんは言う。「そもそもアジア人の指導者が少ない。僕らが何か正論を言っても、多数決の論理でかき消されてしまうことがある」と歯がゆい思いを噛み締めている。

だからこそ、三好さんのような人物が実績を積み重ね、やがてメジャーリーグで指揮を振るえば、MLBで日本人に対する見方を大きく覆すことができるはずだ。メジャーリーグで日本人監督を“普通のこと”にするための戦いを続けている。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

© 株式会社Creative2