遠藤周作の未発表3戯曲 長崎・遠藤周作文学館で発見 日本人とキリスト教テーマ

発見された遠藤周作の未発表戯曲「善人たち」自筆草稿の一部(長崎市遠藤周作文学館提供)

 「沈黙」など長崎県ゆかりの作品を複数残した作家遠藤周作(1923~96年)による未発表の戯曲3作品の自筆草稿と清書原稿が、28日までに長崎市東出津町の市遠藤周作文学館で見つかった。いずれも遠藤文学の根底となる「日本人とキリスト教」をテーマにしている。これまで遠藤が書いた戯曲は没後に発表された「サウロ」(48~49年ごろ執筆)を含む7作とされていたが、今回の発見により遠藤文学における戯曲の世界がさらに広がりそうだ。
 同市の田上富久市長が28日の定例記者会見で発表した。3作は▽「善人たち」(草稿25枚、清書124枚)▽「戯曲 わたしが・棄(す)てた・女」(草稿22枚、清書105枚)▽「切支丹大名・小西行長『鉄の首枷』戯曲版」(草稿28枚、清書117枚)。
 3作とも草稿は遠藤の住所を示す「東京都下町田市」などと印刷された400字詰め原稿用紙の裏に、直筆で全文が書かれている。清書は当時の秘書が同用紙などを使って記しているが、遠藤の直筆も一部ある。草稿、清書ともに遠藤の推敲(すいこう)や加筆などの跡が残る。執筆時期は原稿用紙の住所や、遠藤の日記の記述から「善人たち」と「戯曲 わたしが-」が1979年ごろ、「切支丹大名-」が75年以降と推測されている。いずれもタイトルはなかったが、今回、遺族や同館関係者らでつけたという。
 「善人たち」は戦争とキリスト教信仰を題材にした作品。太平洋戦争が始まる2年前、米国のクリスチャン一家に留学生として身を寄せた、キリスト教信者の日本人アソウの波乱の人生をつづっている。
 「戯曲 わたしが-」は63年発表の遠藤の同名小説を戯曲化。50才の男がかつて棄てた女ミツのことを思い出し、その足取りを探すストーリー。男の裏切りを許すミツが現代におけるイエスとして描かれている。
 「切支丹大名-」はキリスト教の禁教令から始まり、関ケ原の合戦で小西行長が敗軍の将として捕らえられ、処刑されるまでの物語。禁教政策に表向き従いつつも信仰を持ち続けた行長の内面が細かく表現されている。
 昨年6月に公表された未発表小説「影に対して」の発見を受け、同館が所蔵する1400点の原稿資料のうち、未調査の500点を学芸員らが調べる中で見つかった。田上市長は「遠藤の没後25年に当たる今年、このような未発表原稿が発見されたことを全国の遠藤文学ファンと共に喜びたい」と述べた。
 3作品の草稿、清書は1月4日から同館で公開するほか、文芸誌への掲載や単行本化が予定されている。

遠藤周作(長崎市遠藤周作文学館提供)

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