【2021年の鉄道】ことでんレトロ電車 95年の軌跡

2021年11月3日、日本最古級の車両が讃岐路から姿を消した。ことでん琴平線の前身となる琴平電鉄開業に合わせて製造され、レトロ電車としてファンに親しまれていた1000形120号と3000形300号がこの日をもって営業運転から引退した。この2両は定期運用から退いた後も、2020年9月に引退した5000形500号と20形23号と共にイベント用として長い間運行されてきた。今回は上記の4両の活躍の軌跡を辿る。

製造から定期運用離脱まで

120号は1926年に汽車製造会社で製造された。当時の地方私鉄としては贅沢な半鋼製車両である。

貸切運行で長尾線を走る120号

300号は同じく1926年に日本車輛で製造された。こちらも半鋼製車両である。120号と異なる点としては窓のRの有無、ウインドシルの形状、ウインドヘッダーの有無などがあげられる。

貸切列車の先頭に立つ300号

120号と300号は1966~1967年に行われた車体更新修繕により、戸袋窓の楕円形からHゴム支持の角窓化やパンタグラフの交換などが行われている。2両は晩年長尾線で主に朝夕ラッシュの増結用として活躍した。2003年には300号の戸袋窓が製造時の楕円窓に復元された。その後1300形の導入に伴い、2007年7月末をもって定期運用から離脱した。

500号は1928年に加藤車輛で増結用の制御車として製造された。1953年には電動車不足により電動車化され、主に琴平線と長尾線で活躍し上記の2両と同じく2007年7月に定期運用から離脱した。

高松築港行きの表示板を掲出して橋を渡る500号

23号は元近鉄モ5621形(元大阪鉄道デロ形)であり、1925年に川崎造船所で製造された。1961年にことでんが車体のみ購入し、卵型5枚窓の前面を平妻の前面貫通式に改造し、翌1962年に登場した。主に琴平線と志度線が運用され、晩年は志度線の朝夕ラッシュの増結用として用いられていたが、2006年9月に800形が志度線に導入されたことにより、定期運用から離脱した。

さよならヘッドマークを掲げ4連の先頭に立つ23号## イベント用としての活躍

定期運用離脱後は、主に月1回の特別運行の他、貸切列車としても用いられた。当初、20形の保存車は21号になる予定であったが、21号の車内がペンキ塗りであったのに対し、23号の車内は製造時のニス塗りが維持されており、ファンの人気が高かったことから23号が動態保存車として選ばれ、2007年8月に志度線から琴平線へ転属した。2009年にはことでんオリジナルである120号、300号、500号が近代化産業遺産に認定された。2010年には300号が琴平電鉄開業時の茶色一色に戻されたほか、2014年には23号がファンによる投票により、レトロ電車と呼ばれる旧型の吊りかけ駆動を採用する車両がことでんが民事再生法を適用し経営再建を行うようになった2002年以降、纏うようになっていた茶色とクリームのツートンから全般検査出場時に2002年以前に使われていたファンタゴンレッドとオパールホワイトのツートンに変更された。

2017年のゴールデンウイーク(GW)特別運行、GWの特別運行は旧型4連になることが常だった## 突然の引退発表から引退まで

先述したようにイベント用として活躍していた4両だったが、2019年GWの特別運行において、突如廃車計画が発表された。計画の内容は23号が2020年のGW特別運行後に廃車、500号が20年9月のシルバーウイークの特別運行後に廃車、120号と300号が2021年のGWの特別運行後に廃車となり300号のみ廃車後作業用と撮影用として保存されるというものであり、段階的に廃車していく計画であった。しかし、2020年から流行したコロナウイルス感染拡大による影響を受け、2020年のGW特別運行が中止となったことにより、23号の引退が延期となった。その後、感染が一時減少していた9月から月一回の特別運行が再開となり、シルバーウイークに延期となっていた23号と元々引退予定だった500号のさよなら運転が行われた。2日にわたり行われ、4両での最後の特別運行の他、撮影会も開催された。なお特別運行の乗車と撮影会参加にあたっては感染防止の観点から事前の抽選が行われた。

23号と500号のさよなら運転での撮影会 珍しく夜間の撮影会となった

10月以降は残る2両の引退に向けての花道を飾るかのようにレトロ電車と一般車の併結を行っての運行が増えた。元々、ことでんの車両は放送用電源の電圧が違う1250形と制御方式が違う1300形を除いて全てHL制御で統一されているため、レトロ電車と一般車の併結も可能である。現に長尾線での定期運用に用いられていた際は、600形や700形と併結を行っていた。

特別運行において琴平線の600形を挟んだ編成が運行された

京急時代の塗装を再現したラッピングを纏う1080形と併結

引退した23号は12月に香川県高松市の特定非営利活動法人88(エイティエイト)に譲渡され、一般公開されている。また、500号は21年10月に同じく高松市の南部開発株式会社に譲渡された。こちらはイベント時のみ公開の予定となっている。

88に向けて陸送される23号

120号と300号は予定通り2021年GWの特別運行において引退するものと思われたが、再度感染拡大したことを受け特別運行自体が2021年1月以降中止となり、引退が夏頃まで引退が延期された。しかし、感染拡大が収まらないことにより再度延期となり、最終的に21年11月3日にさよなら運転が行われた。今回は乗車に関してはフリー乗車となったが、撮影会に関しては抽選になった。運行後、当初は保存予定でなかった120号も300号と同じく作業用、撮影用として保存された。

さよなら運転での120号## 終わりに

以上のようにことでんレトロ電車の軌跡を見てきたが、近年におけるレトロ電車はことでんの看板的存在であったため、レトロ電車が引退してからことでんがどのようにファンを集めていくのか注目である。レトロ電車は引退したとはいえ今後も仏生山工場で稼働中なので、興味がある方は入れ替えに奮闘する95歳の長老の姿を見に行ってみてはいかがだろうか。

出典・参考資料

高松琴平電気鉄道公式サイト.

森貴知、2011、「琴電100年のあゆみ」、JTBパブリッシング.

【著者】東洋大学鉄道研究会

東洋大学鉄道研究会は、東洋大学白山キャンパス第一部の公認サークルです。「旅を楽しむこと」ことをメインに活動しており、日帰り旅や年2回の合宿、学園祭での企画展示などを行っています。

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