“節目”に活躍を見せた角田。2022年は序盤の入賞、コンストラクターズ5位に期待/ホンダF1山本MDインタビュー(3)

 2021年に7年ぶりの日本人ドライバーとしてF1にデビューした角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)。シーズン前半戦はチームメイトのピエール・ガスリーを意識しすぎたがゆえにクラッシュなども経験したが、サマーブレイクを経て臨んだ後半戦は徐々に安定感を見せていき、最終戦アブダビGPでは自己最高位となる4位に入賞してシーズンを終えた。

 ホンダF1の山本雅史マネージングディレクターは角田の1年目について「ルーキーにとってはセットアップは大きな課題だった」と振り返るも、大きく技術規則の変わる2022年に向け「シーズン序盤からしっかりポイントをふたりで稼いで目標を達成してほしい」と語る。そしてレッドブルに関しては、2022年こそコンストラクターズ選手権でもタイトルを争うことを願っていると話した。

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──2014年の小林可夢偉以来、7年ぶりの日本人F1ドライバーとしてデビューした角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)選手の1年はいかがでしたか。

山本雅史マネージングディレクター(以下、山本MD):前半戦はいろいろなことがありましたが、ハンガリーGPで自己最高位(当時)の6位で前半戦を締めくくったことは非常によかったと思います。厳しいなかでも生き残って結果を出して、夏休みにフィジカルもメンタルも含めてひと息つくことができたと思うし、しっかりとリフレッシュして後半戦へ臨むことができたと思います。

──しかし、後半戦はしばらく結果がでませんでした。第16戦トルコGPでモノコックを変えてから、ようやくQ3に進出できるようになりました。

山本MD:確かにモノコックを変えてからはちょっと変わりましたね。本人も言っているし、フランツ(・トスト/アルファタウリ・ホンダのチーム代表)もそう言っていた。モノコック単体で見る限り何もダメージはなかったわけですが、個体差なのかもしれません。ただ夏休みを経て、本人がリフレッシュできたことは確かだと思います。夏休み以降一番気にしていたのが、金土日の3日間をどうやって過ごして、ベストリザルトに持っていくかということでした。ただ、金曜日の段階でクルマのセットアップが合っていないと、どうしても3日間の組み立てがうまくいかなかった。逆に金曜日の走り始めがいいとそのままスムーズに行っていたようです。やっぱりルーキーにとってはセットアップは大きな課題だったと思いますよ。

──2022年に向けて、角田選手にはどんな期待を持っていますか。

山本MD:私は彼をFIA-F3から見てきていますが、彼は崖っぷちに強い。FIA-F2も最後のバーレーンの1回目の週末では、トップ3に入ればスーパーライセンスを取得できたのにノーポイント。崖っぷちとなった2回目の週末では優勝と2位というベストリザルトを獲得しました。F1でも最終戦でベストリザルト。前半戦も最後のハンガリーGPでその時点での自己最高位の6位だった。節目節目でいいレースをしていたので、2022年は23戦すべてのレースでそうしてもらいたい。正月が明けたら会おうと思っているので、そんな話もしたいと思います。

2021年F1第22戦アブダビGP 特別デザインのヘルメットを山本MDに披露した角田

──セッティングが合っていないときでも、いかに踏ん張れるかですね。

山本MD:金曜日の時点で、「何か今回このサーキットにクルマが合っていない」と思うと、なかなか立て直しができなかった。その点、ガスリーだったら、「ここは6位前後でしっかりとポイントを獲りに行こう」と切り替えていました。アブダビがわかりやすい良い例で、金曜日の出だしはふたりはまったく違うセットアップでスタートしていたんですよ。チームがテストを行っていたからです。そのセットアップが角田の方がいい方向にいった。逆にガスリーは大きく変更しなければならず、なおかつ自分で良い方向を見出すのに苦労したわけです。その結果、土曜日もリカバーしきれず、予選Q2落ちするわけです。でもね、ガスリーの強さというのはここから始まって、レースではファイナルラップで角田の真後ろでゴールした。その辺りが1年目の角田と5シーズン目のガスリーの違いですね。

2021年F1第22戦アブダビGP ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)

──ホンダのF1参戦は終了しました。しかし、2022年もホンダのDNAが入ったパワーユニット(PU)がレッドブルとアルファタウリのマシンに搭載され、F1を走ります。どんな期待をしていますか。

山本MD:ベースはホンダのPUを使っていただけるので、まずはレッドブルには2022年こそ、2021年に逃したコンストラクターズ選手権も含めてふたつのチャンピオンシップ争いを願っています。アルファタウリに関しては、惜しくもコンストラクターズ5位を逃しましたが、5位を狙えるチームだと思ってるので2022年はシーズン序盤、しっかりポイントをふたりで稼いで目標を達成してほしいと心から思っています。2022年は車体に関するレギュレーションが大きく変わり、ある意味、どのチームにもチャンスがあり、拮抗する可能性があります。だからアルファタウリのふたりもぜひ表彰台の真ん中を勝ち獲ってほしいと願っています。

ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)

──2022年、ホンダは、どのようにF1に関わっていくのでしょうか。

山本MD:ホンダPUのIP(知的財産)の権利をレッドブルが引き継いで、その権利を有してレッドブルパワートレインズが中心になり、引き継ぎ期間ということも含めて、彼らが足りていないところでホンダがエンジニアリングサービスを行うことは決まってます。それを現場でどう行うのかという詳細はこれから議論をしながら進めていきます。

2022年からはホンダPUのIPをレッドブルが引き継ぎ、ホンダはエンジニアリングサービスを提供する

──最後に山本さんの去就について伺ってもいいですか。

山本MD:その前に、改めましてホンダF1、モータースポーツファンのみなさん、7年間本当にありがとうございました。いいシーズンを送り、最高の形で締めくくることができてうれしく思っています。アブダビGPの後、イギリスに戻って荷物を整理してから日本へ帰国の途につき、12月15日に日本に到着したのですが、搭乗していた飛行機の乗客のなかにオミクロン株の陽性者がいたことが判明し、年末まで14日間指定されたホテルで隔離生活をしていました。したがって、年内に出社することはできませんでした。

 私は6年間、F1でいろいろなことを学びました。これは私だけでなく、会社にとってもひとつの財産と思っていますので、その財産をきっちりと会社と経営メンバーに報告しなければなりません。それがひとつの私のけじめだと思っています。そのけじめがついた後に、いろいろ考えていることがあるので、それを年明けに然るべきタイミングでみなさんにまた報告ができればと思っています。

ホンダF1 山本雅史マネージングディレクター
レッドブル・ホンダのガレージで作業を見守る山本MD
ホンダF1 山本雅史マネージングディレクター

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