「横浜港にワッチマンという仕事をしている人たちがいますが、どんな仕事なのでしょうか」。横浜市の40代女性から「追う! マイ・カナガワ」取材班に疑問が届いた。女性の夫が最近、港関係の仕事を始め、ワッチマンという肩書の男性と名刺を交換したとのこと。夫も「どんな仕事なのかな」と首をかしげているという。
◆さまざまな「マン」
ワッチマン─。格好いい響きだが、確かにどんな仕事なのか想像がつかない。
そもそも、ミナトヨコハマにはどのような仕事があるのか。まずは図書館に足を運んだ。
横浜開港150周年記念図書刊行委員会の「横浜港物語みなとびとの記」をめくると、ワッチマンだけでなく、さまざまな○○マンという職業があることが分かった。
岸壁で船舶係留用の綱(ライン)を扱う人は「ラインマン」。貨物の積み降ろしを行う荷役現場の責任者は「フォアマン(Foreman、作業長)」。貨物の数量や状態をチェックする人は「タリーマン(Tallyman、計数係)」と呼び、諸説あるが英語の呼び名が定着したようだ。
港の花形と知られるのは、コンテナを運ぶ巨大なガントリークレーンの操縦者「ガンマン」。“港のガンマン”としてテレビでも紹介されるほど有名だ。
脱線してしまった。依頼されたのは「ワッチマン」だった。
横浜港で何人かに聞いてみると、山下ふ頭(同市中区)に「全日本ワッチマン業協会」という団体があるという情報を耳にした。
◆「よく聞かれます」
観光客でにぎわう横浜市中区の山下公園を通り、山下ふ頭まで来ると「港湾関係者以外立ち入り禁止」の看板がある。緊張しながら進むと大きな建物の2階に全日本ワッチマン業協会の事務局があった。
粟竹俊幸会長(56)に質問すると、「よく聞かれますよ」と笑いながら、詳しく教えてくれた。
「見る、監視するという意味の『ウオッチ』という英語は『ワッチ』とも聞こえるでしょう。だから、監視する人という意味でワッチマン(Watchman)。港の警備員のことですね」
県内では終戦直後の1945年ごろ、横浜港に野積みされた物資が盗まれないように配置された人たちが発祥という。
港に着岸した船に乗り込んで、荷物が満載された船倉や船の出入り口(舷門)を見張るようになったそう。徐々に、荷物の紛失や盗難防止、訪船する人のチェックも担うようになっていった。ワッチマンが船内を警備するのは着岸中だけ。出港を見送ると、次の船に乗り込む。
警備員といえば真っ先に「ガードマン」という言葉を思いつくが和製英語のため、外国人には通じないそう。「陸上の警備業が今のように当たり前になる前に、港ではワッチマン業が確立された。港の世界では、ワッチマンが世界共通語ですよ」。自身も現役のワッチマンという粟竹会長が「ワッチマンの仕事は時代とともに変化しているから、現場に行ってみたら」と提案してくれた。