同居両親が他界したら地方都市へ移住したい50代夫婦。住まいは賃貸か購入か?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、高齢の両親と1人のお子さんと暮らす50代夫婦。両親の他界後には、車がなくても暮らせる地方都市に移住したいと考えていますが、住まいは賃貸と購入、どちらがよいでしょうか? FPの飯田道子氏がお答えします。


同居の親(2人とも82歳)が他界後、田舎から地方都市へ転居したいと考えていますが、賃貸と中古物件購入、どちらがよいでしょうか。

購入なら2,500万ぐらいまで購入可能でしょうか。転居理由は、老後、車がなくても生活できる場所で生活したいため。転居する際は、実家は売却するつもりです。実家は築25年、ローンなし。子どもとの同居予定はありません。

子どもは、私立大文系自宅外通学予定。仕送りは月10万程度と考えています。年金は直近定期便のデータでは、夫140万円、私160万円。子どもが社会人になったら、60歳で2人ともリタイアを希望しています。

【相談者プロフィール】

・相談者:53歳、会社員

・夫:54歳、会社員

・子ども: 16歳

・同居義父母:2人とも82歳。援助はなし

・住居の形態:持ち家(戸建て・東北地方)

・毎月の世帯の手取り金額:夫30万円、私30万円(ただし、3年後から年収が70%に減額される)

・ボーナスの有無:あり

・年間の世帯の手取りボーナス額:195万円(夫15万円、私180万円)

・毎月の世帯の支出の目安:37万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:固定資産税7,000円

・食費:9万円

・水道光熱費:6万円

・教育費:6万円

・通信費:1万3,000円

・車両費:1万3,000円

・お小遣い:4万円

・その他:医療費1万円、交通費1万円、日用品2万円、その他雑費

【年払いの支出】

・自動車保険:9万円

・火災保険:13万円

・夫養老保険:25万円(65歳まで払い込み)

・私医療保険:20万円(60歳まで払い込み)

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:20万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:160万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):7,500万円

・現在の投資総額:夫確定拠出年金90万円(月2万3,000円)、私確定拠出年金340 万円(月4万6,000円)、持株約350万円

・現在の負債総額:ローンなし

・退職金:夫/不明、定年なし。私/定年60まで勤務すると1,000万円

飯田:今回は、セカンドライフを送るとき、田舎から交通の便や利便性を考えて地方都市へと転居したいと考えている53歳の相談者様です。その際の住まいは賃貸か中古物件を購入するかどうかをお悩みのようで、ひとつ年上の夫とともに60歳でリタイアしたいという思いをお持ちです。

ただ、ご両親が健在のため、ご両親が旅立った後をタイミングとし、現在、子どもさんが16歳であることから、社会人になるまでは学費や仕送りをする必要もあるとのこと。今の住まいは売却予定とのことですが、相談者様の場合、新たな住まいを賃貸にするのか、中古物件を購入するのか、どちらがいいのでしょうか。決めるときには、どのような点に注意して判断するべきなのでしょうか?

60歳時点でどれくらいの資産があるのか、確認してみましょう

頂いたデータをもとに、60歳時点で、相談者様のご家庭にどれくらいの資産があるのかをシミュレーションしてみます。

相談者様の年収は3年後から70%となるようですので、53歳(夫54歳)から3年間は現状の金額で、その後60歳(夫61歳)までは、相談者様の収入を70%減で計算していきます。また、夫婦ともに60歳でリタイアを希望とのことですが、夫には特に定年がないため、相談者様と同じ年にリタイアすると仮定してシミュレーションしていきます。

毎月の貯蓄額は月額20万円で年間240万円、ボーナスからの貯蓄額は年間160万円です。3年間で積み上げられる貯蓄額は、1,200万円です。

その後、相談者様が60歳になるまでの4年間では相談者様の収入が70%になるのを加味し、毎月の貯蓄額は月額14万円で年間168万円、ボーナスからの貯蓄額は年間112万円とした場合、4年間で積み上げられる貯蓄額は1,120万円です。

現状の貯蓄額の7,500万円、相談者様の退職金を合わせると(夫の退職金は考慮せず)、1億820万円になる計算です。

ただし、子どもの大学進学もこの期間にあるため、4年間の学費として約690万円(※)と、毎月の仕送り10万円(4年間で480万円)を捻出するとしてシミュレーションした場合には、手元にある貯蓄額は9,650万円となります。支出の費用の学費では、一部、重複する部分もありますが塾代などを考慮すると、シミュレーションに大きく影響することは考えられないでしょう。

公益財団法人生命保険文化センターHPより

売却の利益は期待できないが、老後の生活費には困ることはない状況

日本の場合、木造の一戸建てで30年を経過している物件を売買するときには、上物(家屋)には価値はなく、土地の価格のみで売買されるのが一般的です。相場はその時々で変わっていきますが、どれくらいの価格で取引されているのか、国土交通省の「不動産取引価格情報検索」で確認してみてください。参考になると思います。

田舎から地方都市への移住を考えているとのことですが、地域によって価格は大きく変わっていきます。売却した場合、物件を買い換えないときには売却益に税金が課税されます。手元に残るお金はあまり期待できないかもしれません。

また、60歳から65歳までの間は収入がない状態になるため、5年間は預貯金を切り崩さなくてはなりません。月額30万円支出すると想定した場合、5年間で1,800万円支出することになり、投資分を考慮しない場合の手持ち貯蓄額は7,850万円です。

年金受給額は夫婦で年間300万円。その他にも上乗せを準備しているため、生活そのものに困ることはないでしょう。

持ち家がいいか賃貸がいいかは手元にいくら残したいかによる

たとえば、4,000万円で中古物件を購入し、諸費用で500万円かかると、手持ちの貯蓄額は3,350万円になります。あわせて、固定資産税もかかることになります。一方、10万円の賃貸物件を借りた場合は、年間の支出額は120万円となり、4,500万円は37.5年分の家賃に相当します(更新料は含めず)。

購入するか、賃貸にするか悩む人は少なくありません。その際は、実際の購入価格と賃貸料を計算し、手元にいくら残したいのかがポイントになります。

住みたい都市を絞り込み、正確な価格でシミュレーションする

相談者様の場合、購入しても賃貸でも問題はないようです。とはいえ、具体的な物件があるわけではなく、あくまでも仮定の金額を入れてシミュレーションした結果に過ぎません。

お金はあり過ぎて困ることはないのですから、できるだけコストや手間がかからないほうを選んだほうがいいでしょう。そのためには、住みたい都市、できれば地域や最寄り駅を絞り込んでいき、どのくらいで購入できるのか、賃貸ならいくらかかるのかを知っておくことが大切です。

都市を選ぶときには、相談者様がおっしゃるように交通の便や利便性が高いところがお勧めです。ただし、利便性といっても、人によって欲しいサービスは違ってきます。具体的には徒歩で日用品の買い物ができる、近くに大きな病院があることをベースにし、自分たちのこだわりのポイントを加えた利便性の良い場所を選ぶと良いでしょう。

60歳までには、まだ時間があります。それまでの間に、住みたい都市・地域を絞り込み、まずは、そこでどのような生活を送りたいのかを考えていくようにしてください。

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