走り去った列車たち #1 EF63 台検三重連

今年(2022年)9月30日で、信越本線 横川ー軽井沢間が、北陸新幹線長野開業に伴って廃止されてから、25年を迎えます。1997年10月1日に開業した北陸新幹線 高崎ー長野間は、初めての整備新幹線開業であり、並行在来線の一部区間廃止・バス転換、新設された第三セクター鉄道への経営移管など、沿線住民や利用者などに大きな影響を与えました。

高崎に生まれ育った私は、碓氷峠で活躍した電気機関車 EF63の最後の活躍を記録するため、1995年、東京・千代田区内の大学へ高崎から新幹線通学を開始しました。碓氷峠まで1時間かからずに到達できる高崎から動かないことで、碓氷峠における撮影機会を最大化しました。その結果、大学3年の9月末で同区間が廃止になるまで、年間約100日のペースで、碓氷峠で鉄道写真を撮影することができました。撮り溜めた写真は、私が本名で出版したKindle写真集「追憶: JR信越本線 横川ー軽井沢間(碓氷峠)廃止20周年記念写真集」にまとめていますので、多くの方々にご覧いただきたいです。

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EF63 台検三重連とは?

「鉄道プラスワン」には、若い読者の皆さんも多いようですから、今回紹介する「EF63 台検三重連」について、基本的なところから説明をします。JR線で最も勾配のきつかった信越本線 横川ー軽井沢間では、全ての列車に、EF63の重連が連結されていました。EF63は、2両一組でペアを組んで運用されていました。時々、2つのペアが連結され、四重連となって単機回送されることもありました。基本的にEF63は2両、たまに4両で走っていました。

当時の横川運転区では、EF63の台車検査:通称「台検」を行っていました。最も大掛かりな全般検査(通称「全検」)は大宮で行っていたので、横川で行われる最も大規模な検査が台検でした。

19930530 台検中のEF63 横川運転区 P:鉄道博士

19930530 台検中のEF63 横川運転区 P:鉄道博士

上の写真は、横川運転区に撮影許可を得て、休日に台検中のEF63を撮影した写真です。EF63-20がジャッキアップされ、台車が外されていることがわかると思います。取り外された台車は検査され、必要に応じてメンテナンスをされていました。台検が終わり、営業運転列車に充当される前に行われていたのが、今回の記事で紹介している「台検三重連」と呼ばれる試運転列車です。

19960305 試8493レ EOS-1NHS EF50mmF1.4 f3.2 1_250 RD 横川ー軽井沢 P:鉄道博士

この写真に写っているのは、横川から軽井沢に向かう、下り試運転列車です。写真の左側に写っている、最後尾のEF63が、台検を終えたばかりの車両です。前2両は、ペアを組んで運用に入っているEF63です。EF63には、勾配区間で架線から受電できなくなっても大丈夫なように、他の鉄道車両ではほとんど見られない特殊な装備があります。それらが正常に動作するか確かめるため、「台検三重連」の試運転列車は、本線上(勾配区間)で停車してパンタグラフを下ろしたり、勾配上から再起動したりしていました。

19960305 試8490レ EOS-1NHS EF28-70mmF2.8L 1/125AE RD 横川ー軽井沢 P:鉄道博士

この写真は、軽井沢から横川に戻る、「台検三重連」上り試運転列車です。先頭のEF63に、検査係の方が乗務している様子が写っています。本線上で停止し、非常時に用いる電磁吸着ブレーキをレールに吸着させたりします。単にEF63の3両編成というだけでも興味深いのですが、普段は動作させることのない特殊装備が動いている様子を見られるので、見ごたえのある列車でした。

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「台検三重連」試運転列車の様子は、こちらのブルーレイディスクに収録されています。この映像は、もともと同名で発売されたVHSビデオをブルーレイ化したものです。非常に見ごたえのある映像が収録されていますので、ご覧になったことのない方には、とてもお勧めできます。

19961006 EF63-11 回送 北高崎ー群馬八幡 P:鉄道博士

この写真は、大宮で全検を終え、1両で横川へ帰ってゆくEF63-11を撮影したものです。EF63の速度計には、目盛りが75km/hまでしか刻まれていません。盛大にブロワー音を響かせながら、ゆっくりと走るEF63は、かなり遠くからでも認識することができました。この11号機は、現在も碓氷峠鉄道文化むらで動態保存されています。希望者は運転体験もできますが、毎回大変な人気で、なかなか予約を取れないようです。

今年、廃止から25年を迎える「横軽」が、今でも多くの人に親しまれているのは、碓氷峠でEF63の撮影に熱中した者の一人として、とても嬉しいことです。

関係各位様のご尽力により、「SL/DL/ELぐんまよこかわ」が高崎ー横川間で時々運転され、毎回好評を博しています。皆さんも是非、碓氷峠鉄道文化むらを訪問してみてください。他の施設では味わえない、貴重な体験をすることができます。

【著者】鉄道博士 / Dr. Railway

生後2ヶ月より、鉄道を眺め始め、列車の音が、子守唄代わりになる。 3歳で、交通博物館(鉄道博物館の前身)のリピーターとなる。保育園に登園前の早朝から、最寄駅に年200回ペースで通い始める。 5歳で、鉄道に関するニュースが読みたい欲で、毎日、複数の新聞を読むようになる。小学校入学までには、ほとんどの漢字を読めるようになる。 小学校の入学祝いに「国鉄監修 交通公社の時刻表(現 JTB時刻表)」を買ってもらい、全ページ読破し、旅行の計画を立てるようになる。 10歳で、一眼レフでの鉄道写真撮影をスタート。学生時代は、鉄道の写真をひたすら撮る生活を送り、塾等も行かず、法政大学へ入学。 その後も、企業の取締役、海外との業務提携等の仕事をしながら、鉄道写真を撮り続け、鉄道誌に寄稿を続ける。 1949年以降の日本の車輌であれば、数百種類の車輌の解説が可能。それぞれの特徴や魅力も含めて何でも楽しく解説する姿から”鉄道博士”と呼ばれるように。

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