夢の実現だけでは終わらない NPBジュニアトーナメントが17年も続く理由

「NPB12球団ジュニアトーナメント KONAMI CUP 2021」は17年目を迎えた【写真:間淳】

楽天・松井裕樹や阪神・佐藤輝明ら多数のプロ野球選手も出場した“登竜門”

昨年末の「NPB12球団ジュニアトーナメント KONAMI CUP 2021」は、中日ドラゴンズジュニアの優勝で幕を閉じた。17年目となった大会は基本理念を守りながら、もう1つ上のステージに向かっている。「プロ野球選手への夢」から「少年野球の見本」へ。NPBや元プロ野球選手が深く関わる大会だからこその意義や使命がある。

プロと同じデザインのユニホームを小学生が身にまとう。今大会の会場は神宮球場と横浜スタジアム。子どもたちはプロと同じグラウンドでプレーする。「NPB12球団ジュニアトーナメント」は2005年にスタート。大会を主催する日本野球機構「NPB」は「夢への挑戦が実現できる環境をつくり、その拡大を図る」と目標を掲げていた。

大会の特徴の1つは、元プロ野球選手がチームの指導者をしていること。監督やコーチの顔ぶれを見れば、保護者世代は懐かしく感じるだろう。子どもたちはプロ野球経験者から直接指導を受け、コミュニケーションを交わすことで、プロ野球との距離がぐっと縮まる。実際、この大会に出場して、プロの世界で活躍している選手は多い。日本ハムの近藤健介外野手や楽天の松井裕樹投手、阪神の佐藤輝明内野手も、ここから巣立っていった。

各ジュニアチームのメンバーは16人。普段は別々のチームに所属する小学5、6年生が、この大会のために選出されている。約3か月間の練習期間を経て、最大3日間の短期決戦に臨む。能力の高い選手によって結成された“急造チーム”に見えるが、実際は想像以上に絆が深い。

阪神タイガースジュニアは今大会の初戦、読売ジャイアンツジュニアに6点をひっくり返され、敗れた。失点した2人の投手は試合後、号泣していたという。その2人を他の選手たちが気遣って声をかける。敗戦すると、時にはプロ野球を経験した監督やコーチ、さらには保護者が涙を流すほど、短い期間でチームは結束している。

プロを目指す子どもたちが元プロ野球選手指導のもと、本気で戦うからこそ得られるものは多い。今大会に出場した福岡ソフトバンクスホークスジュニアの野田美咲さんは収穫を口にする。

ホークスジュニアの野田美咲さん 【写真:間淳】

2019年から「DH制」を採用、今大会からは「リエントリー制」を導入

「今まで投手をしていた時にイラッとすると顔に出てしまいましたが、平常心を保つことや味方に声をかける大切さをコーチから学びました。チームメートの投手と比べると、自分は緩急の使い方やコントロールがまだまだですし、内野の守備ではスローイングに差を感じました」

短い期間で上のレベルを知り、技術も心も成長。こうした経験が普段プレーするチームに還元され、少年野球全体への効果も期待できる。

17年目を迎えた「ジュニアトーナメント」は少しずつ形を変えている。2019年から「DH制」を採用し、今大会は一度交代した選手が再び出場できる「リエントリー制」を導入。どちらも選手の出場機会を増やす狙いがある。また、体への負担を考慮して、2020年から全選手の肩や肘を検診。球数は1人の選手につき1日70球に制限した。少年野球の在り方が議論され変化していく中、元プロ野球選手がトップレベルの小学生を指導する大会で、子どもたちにとってより良い環境や仕組みを模索する意義は大きい。

阪神タイガースジュニアの白仁田寛和監督は「どんなに能力が高くても、怪我をしたら野球を続けられません。練習や試合で量より質を上げていく方向に変わっていく方が、子どもたちのためになると思います」と変化を歓迎する。福岡ソフトバンクホークスジュニアの帆足和幸監督は「球数が限られて投手の四球が少なくなりました。コントロールの良い投手が増えていくのではないかと感じています」と話した。

変化を取り入れる姿勢は、大会を主催するNPBが「少年野球の見本になる」という意識の表れといえる。他にも、今大会から取り入れた動きには「フェアプレー会議」がある。全12チームの監督を集めて、プレー以外でも見本となれるようディスカッションした。大会の個人賞には成績だけではなく、相手チームや審判への敬意といった野球に取り組む姿勢も加味した。

「NPB12球団ジュニアトーナメント」は、全国トップレベルの小学生が集まる大会として知名度を高めてきた。NPBが次に描くビジョンは「少年野球の見本」。野球の技術だけではなく、人間的に尊敬される選手の育成を目指している。(間淳 / Jun Aida)

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