自分に万が一の時、これを書いておけば家族も安心。「エンディングノート」の使い方

「終活」が浸透し、存在が知られるようになった「エンディングノート」。何を書けばいいのか、どのように活用すれば効果を発揮できるのでしょうか? 相続のプロが解説します。


「エンディング」という言葉から「死」を連想し、暗いイメージを持つ方もいらっしゃいます。しかし、エンディングノートは「死」へ向かうための準備ではなく、残りの人生をより良く充実させて生きるためのツールとして活用できるノートです。今回は、以下の4つのポイントを解説し、エンディングノートに書く内容をご紹介します。

(1)エンディングノートとは?
(2)遺言書との違い
(3)エンディングノートを書くメリット
(4)エンディングノートに書いてほしい内容10項目

(1)エンディングノートとは?

エンディングノートとは、これまでの人生を振り返り、どう生きて終わりを迎えるのか、自分の希望を書き記すことができるノートです。冒頭にも述べましたが暗いイメージではなく、自分で自分の人生をプロデュースするためのものです。

エンディングノートは、自分だけでなく家族にも役立ちます。書く項目が印刷されている市販のものを使用しても良いですし、普通のノートや便せんなどに書いてもOKです。最近では自治体や葬儀社等に用意してあるものもあります。気軽に書けて、書き直しも自由です。

(2)遺言書との違い

遺言書とエンディングノートの違いは「法的効力があるかどうか」です。

どちらも、相続が起こった際の財産の分け方について書くことはできますが、法律の決まりに従って遺言書に記載した内容には法的効力があるのに対して、自由な書式でエンディングノートに記載した内容には法的効力はありません。

遺言書には法的効力がありますが、何を書いてもいいわけではありません。法律で定められた項目のみを書くことができ、「亡くなったあと」にのみ効力を発揮します。一方でエンディングノートは、亡くなったあとのことに限定せず、生きている間に叶えたい想いや願いを、幅広く書くことができます。

(3)エンディングノートを書くメリット

エンディングノートは、遺言書のように法律に縛られたものではありません。だからこそ気軽に、自由に自分の想いや願いを書くことができます。自分の人生をプロデュースするための、いざというときに自分の願いを尊重してもらうためのツールなのです。

そしてなんといっても、一番のメリットは家族の判断の負担を減らすことができる点です。本人にとっては、今までの人生を振り返り、現状の棚卸ができます。また、今後の人生を見つめ直し考えるきっかけにもなるのです。

(4)エンディングノートに書いてほしい内容10項目

ここで、エンディングノートに書いておきたい内容10項目をご紹介します。

1.介護が必要になったときのこと
2.生死にかかわる事故や病気になったときのこと
3.自分の葬儀に関すること
4.家の歴史のこと
5.お墓のこと
6.自分のこと
7.デジタルツールのこと
8.ペットのこと
9.障害をもつ子供がいる場合
10.これからの人生でやりたいこと

1.介護が必要になったときのこと
認知症や寝たきりになったときの介護について、介護をしてもらいたい人、介護をしてもらいたい場所(自宅、病院、施設など)、費用等について記しましょう。また財産管理の面で、誰かに面倒を見てもらうための契約(財産委任契約、後見契約など)をしているのであれば、それも書き残しておきます。

2.生死にかかわる事故や病気になったときのこと
病名や余命の告知をしてほしいのか、してほしくないのか。治る見込みのない病気にかかったときの延命治療についてどうしたいのか。臓器提供に関して、どのように考えているのか。最期を迎える場所(自宅、病院、施設など)の希望はあるのかなど、突然やってくる万が一の場合に備えて自分の希望を書いておきましょう。

3.自分の葬儀に関すること
葬儀社とすでに契約をしているのか、していないのか。葬儀の規模や内容をどうするのか。喪主は誰に頼みたいのか。友人、知人のなかで連絡をしてほしい人、してほしくない人。さらに、連絡をしてほしい時期(危篤時、死亡時、通夜・葬儀、喪中はがきのみなど)について。ご家族は、ご本人が懇意にしている方々を知らない場合が多く、お別れをしたかったのに連絡が行き届かなかったということもあるようです。また、遺影に使う写真の準備もされてみてはいかがでしょうか。年に1回写真館で遺影に使う写真を撮ることを楽しみにされている方もいらっしゃいます。

4.家の歴史のこと
歴史という意味では、信仰している宗派や家紋などを知ることは、家の行事を行う際に大事なことです。また、祖父・祖母について、顔はわかっていてもどんな人だったのかなどは同居していなければわからないことも多くあります。祖父・祖母よりも前のご先祖様のことや家の歴史は語り継がれなければ途絶えてしまいます。ご先祖様はどんな人だったのかといったお話を、家族、親戚が集まる時期にしてみてはいかがでしょうか。

5.お墓のこと
「先祖代々のお墓が住んでいる場所から遠く、お参りにも行けていない」「お墓をどうしようか」という声を聞くことが多くなりました。「墓じまい」等々考える前に、今そのお墓の場所や、管理はどうなっているのかを残しておきましょう。また、お寺や霊園とのお付き合いはどうしているのか。家族は法事等の際のお布施や懇志などにも頭を悩ませることになるので、今までこうしてきたというものを残しておくようにしましょう。

6.自分のこと
名前、住所、生年月日、勤務先や学歴など、現在から過去にさかのぼって記入します。ご自身のことなので、比較的スムーズに書き進めることができる項目です。出生場所や名前の由来など聞いたことがなければ、ぜひ親御さんに生まれた日のこと、名前の由来を聞きながら一緒に書いていきましょう。

7.デジタルツールのこと
ネット証券やネット銀行の取引があることは、本人でないとわかりません。エンディングノートにどこまで詳しく書くかは別として、取引があることを知ってもらうことは必要です。また、定期的に会費を払っている契約も書いておくことをお勧めします。ID・パスワードは別途保管でもかまいませんが保管先はわかるようにしておきましょう。スマートフォンのパスワードも忘れずに。ロック解除には高額なお金がかかるにもかかわらず、解除できるかはわかりません。

8.ペットのこと
一人暮らしで犬や猫などのペットと一緒に暮らしている方も多くいらっしゃいます。病院に入院することになった等、飼い主にもし何かがあってもペットには状況がわかりません。家の外に出ることができなければ息絶えることになってしまいます。自分で面倒を見られなくなった時のために、どんな動物を飼っていて、どんな特徴を持っているのか。ペットの健康状態やかかりつけの動物病院、避妊・去勢の有無、ワクチンの種類、接種時期等がわかれば、お世話をしてくれる人への負担も軽くなるでしょう。

9.障がいのある子供がいる場合
障がいのある子供を持つ親御さんの場合、一番心配なことは、親が子供のそばにいられなくなった時にこの子はどうなるのかという、「親なきあと」のことです。入院したり、認知症になったりと、亡くならなくてもそばにいることができない状況は出てきます。そのときに子供を支援してくれる方に子供のことを知ってもらい、子供が安心して人生を全うできるように書き記すことはとても大事です。かかりつけ医や利用施設、生活スタイル、日常生活でできること、できないこと、移動や外出の際に配慮すること等、親からすれば些細なことでも支援者の方には戸惑うことがたくさん出てきます。一度に書ききれないと思いますので加筆、修正を重ねながら更新してください。

10.これからの人生でやりたいこと
今までを振り返りエンディングノートを書いてみたことで、昔やってみたかったけどできなかったことや、行ってみたい場所、会いたい人が思い浮かんだ方もいらっしゃるのではないでしょうか。まだ遅くはありません。いまから行動してみましょう。

エンディングノートは年に1度見直しましょう

エンディングノートを書き進めていくと、自分の人生を棚卸して見つめ直し、自分しかわからなかったこと、伝えていなかったことがたくさん出てくると思います。一度に全部書く必要はありません。気になること、伝えておきたいことから書いてみましょう。そして、1年に1度見直してみてください。

気軽に書き直しができるのがエンディングノートの良いところです。これからの人生を明るく楽しく過ごすための第一歩として、エンディングノートが背中を押してくれる存在になるでしょう。

行政書士・終活カウンセラー:藤井利江子

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