「サイコ・ゴアマン」 閉塞感が漂う世界に風穴を開ける、大玉花火のような一本 【飯塚克味のホラー道】

飯塚克味のホラー道 第11回「サイコ・ゴアマン」

昨年の夏に公開され、一部のファンに熱烈歓迎されたホラー・コメディ『サイコ・ゴアマン』がついにソフト化された。といっても公開規模も小さかったし、かなり偏った人向けの作品なので、興味のある人がどれほどいるのか、ちょっと気になるところでもある。だが、この映画はホラーファン、特撮ファンなら絶対に見逃してはいけない大・大傑作なのだ。だから聞いてほしい!『サイコ・ゴアマン』の素晴らしさを!

はるか昔、ガイガックスという惑星で宇宙を一掃しようとしていた悪魔がいた。だが正義の力は悪魔を封印し、遠く離れた地球に封印されていた。しかし、8歳の性悪少女ミミが、庭を掘り返して、その封印を解いてしまう。突然、世界の危機が訪れるが、ミミは悪魔を操る石を手にしていた。かくして最強最悪な悪魔はサイコ・ゴアマン(略してPG)と名付けられ、性悪少女の言いなりになってしまう。サイコ・ゴアマンは果たして、自由を手にして世界を破滅することができるのか?というとんでもない逆転発想の物語になっている。

バカな映画ということは百も承知。だが、バカと言われても、その気持ちを貫き通せば、光り輝くお宝に変身する。ジャンル映画のファンならば、これまでにもそんな奇跡を目にしてきたはずだ。『サイコ・ゴアマン』はコロナ禍で世界中に閉塞感が漂う中、そんな気持ちに風穴を開けてくれる、大玉花火のような一本なのである。

いい映画の条件はサブキャラたちも魅力的なことだが、本作はその点でも見事としかいう他ない。ミミのお兄ちゃんは、性悪の妹に頭が上がらない軟弱男子だし、その関係を作った両親もママが強くて、パパは頼りなく、今どきの男女関係を如実に表している。そして公開時にグッズも作られた脳みそくんに至っては、そのチャーミングさに愛くるしさを感じてしまうはず。敵役は昔の特撮ヒーローものに出てきそうなメンバーばかり。真っ白な最強戦士パンドラとガイガックス評議会に参加しているユニークなデザインの宇宙人たちは、あの頃の『スター・ウォーズ』を思い出させてくれ、手作り感満載なのも素晴らしい。

監督のスティーヴン・コスタンスキは、幼い頃から土曜の朝に放送されていたアニメや特撮ドラマに夢中になっていた筋金入りのオタクだ。以前は蔑まれてきたオタクたちも、クエンティン・タランティーノの出現以降、エドガー・ライトなど卓越した才能たちの登場で、もはや信頼のブランドと化している。カナダに拠点を置くコスタンスキ監督もそうした流れに乗って、大躍進を果たしているのだ。約8万円で作ったという長編デビュー作『マンボーグ』(2011年)も、その信じがたい低予算を感じさせない傑作だった。『サイコ・ゴアマン』は更に演出に磨きがかかり、笑わせ、泣かせ、感情を揺さぶる作品になっている。

ブルーレイの特徴としては、劇場ではやや暗く感じたサイコ・ゴアマンのディテールもクッキリ確認できるし、見直す度に発見があるのも、嬉しい限り。映画館で観た時とは異なる感動を与えてくれるはずだ。更に特典として日本の宣伝スタッフが手作りしたというネット用の予告編など、日本版だけのおまけ映像も収録されているそうなので、そちらも楽しみにしてもらいたい。日本語を話す宇宙人キャラの声で、黒沢あすかが参加している点も日本人には嬉しいポイントだ。

とにかくこれほど、ジャンル愛を感じる映画は昨今、見かけてなかった。もし、あなたが『サイコ・ゴアマン』に魅力を感じたら、きっと誰かにそのポイントを伝えずにはいられなくなるはずだ。それだけの魅力を放つ、貴重な一本として、年始にお勧めしたい。


飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
サイコ・ゴアマン
ブルーレイおよびDVD発売中
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