「お金引き落とされています」 警察名乗られ頭真っ白 70代女性が証言 ニセ電話詐欺

女性は通帳とキャッシュカードを袋に入れ、女性警察官を装った女に手渡した(写真はイメージ)

 昨年10月。長崎県内の70代女性は自宅で昼食の準備をしていたところ、電話が鳴った。受話器を取ると「○○警察署生活安全課です」と、男の声がした。「カトウ」だったか「サトウ」だったかを名乗り、内線番号と名前をメモに残してほしいと話したため、女性は言われるがまま書きとめた。
 「びっくりしないでくださいね。お宅のご主人と奥さまの口座から、博多駅のATMでお金が引き落とされています」。女性は頭が真っ白になった。男からは女性が住む町内で同様の被害が既に4件発生していることを伝えられ、キャッシュカードの暗証番号や手元にある通帳の枚数を聞かれた。そして男は続けた。「通帳とキャッシュカードを新しく作らなければなりません。20分後に私服の女性警察官がそちらに向かいます」。通帳とキャッシュカードを袋に入れ、通話状態にしたまま女性警察官に渡すよう男は要求した。追い立てるような感じではなく、ゆっくりとした優しい口調だった。
 ピンポーン。時間通りに玄関のインターンフォンが鳴った。ドアを開けると、フリースにジャージー姿の痩せ型の若い女が立っていた。女は袋を受け取ると、すぐに立ち去った。顔は覚えていないし、声を聞くこともなかった。「渡しました」と男に伝えると、電話が切れた。やりとりは約1時間に及んでいた。
 「本当に警察署からなのかな」。電話をしている間は不審に思わなかったが、急に不安になった。該当する警察署にすぐ電話し、メモしていた男の名前や内線番号を伝えたが話が通じなかった。「通帳とカードを渡したんですが…」。そう言うと、警察官がすぐ自宅に来て、女の特徴や電話の内容などをいろいろと聞かれた。「私、だまされたんだ」。そこで自分が詐欺被害に遭ったことを知った。震えが止まらなかった。
 県警は緊急手配し、被害者の居住自治体内にいた女を警察官が発見して詐欺の疑いで逮捕。コンビニなどで150万円を引き出していたようだが、幸いほとんど使っておらず、渡した通帳とキャッシュカードを全て持っていた。女は当時19歳のニセ電話詐欺グループの「受け子」だった。
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 お金は返ってきたが、事件後はしばらく外出する気分にはなれなかった。自分がだまされるとは全く思っていなかったが、振り返ると、男の優しい口調や部署まで伝えられたことで信じ込んでしまった。「なぜだまされたのだろう」。女性はそう何度も口にした。


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