じめじめしたハラスメント横行 “昭和”に淀む地方議員の世界 内閣府の調査から

地方議員をめぐる、暗く、じめじめしたハラスメントの一端が内閣府によって明らかにされた。2021年10〜11月、全国の地方議会議員を対象として専用サイトを設置し、自らが体験したり見聞きしたりしたハラスメントの実例を収集した。その結果、1324件の実例が寄せられ、今年1月13日に公表された。共同通信やBuzzFeed Japan などがそれを報じているが、具体的な実例はあまり扱っていない。そこで改めて、内閣府の資料から実例を拾ってみた。

ハラスメントは「議員から議員へ」「有権者から議員へ」の2つに分類されている。

■議員から議員へのハラスメント

◆「質問が気にくわない」と胸ぐらつかむ

・議会で質問に立った後、別会派の先輩議員から質問の内容が気にくわないとの理由で、人目のない場所で胸ぐらをつかまれた。
・街頭演説中に邪魔をしようと他の議員から急に杖で体をつつかれる。
・個別の政治活動の内容を理由に、同会派の古参の議員から「勝手な行動はするな」と胸を殴られた。

◆「次の選挙に出るやつはお酌して回れ」

・意見の合わない先輩議員から「だからお前はダメなんだ」「政治生命を絶たせてやる」等の罵声を激しく浴びせられた。
・男性議員から、「女は顔がよければ当選できる」「女に政治は無理だ」「男性だったらいいのに」「周りからも評判が悪い」等の言葉を繰り返し浴びせられ、心労で体調に支障を来した。
・懇親会で「次の選挙に出る奴はお酌して回れ」と言われた。
・立候補を検討していた際に、当選回数の多い議員から、自分を支援する仲間の議員等に対して、自分を応援したら議員人生を終わらせる等の脅しや暴言を繰り返しなされた。

内閣府が収集したこれらの実例を類型ごとに分けてみると、パワーハラスメントが68.4%で最も多かった。次に性的言動などによるセクシュアルハラスメントが22.9%、産休や育休を取った議員を批判するなどのマタニティーハラスメントが1.4%となった。ハラスメントを行ったのは、有権者が53.5%、議員が46.5%。

また、「議員から議員へのパワハラ」で最も多かったのは「精神的な攻撃」で、実に80.2%にも達している。内容もそれぞれにひどい。女性議員に対して「早く子どもを産め」とか、チークダンスを無理強いするとか、「昭和」満載である。いや、昭和の時代もここまでひどいハラスメントは、そうそうなかったかもしれない。

◆「まずは子どもを産めよ」「旦那なかわいそうだ」

・議会関係者が集う飲食を伴う会合等において、年長の議員から、結婚していない理由や離婚の理由等の私的な事柄について、対応に困るほどしつこく問われる。
・少子化対策や子育て支援について議論をしていると、「議員をやめて結婚する方が幸せだよ」「まずは子供を産んだら」と、婚活や妊活への強いプレッシャーをかけられる。
・政治活動で遅くなった際、「早く帰って子どもの世話や夕飯の用意をしないとだめじゃないか」「旦那はかわいそうだ」と言われる。

出典:内閣府
◆チークダンスの強要、下ネタを大声で

・懇親会等で寄ってきて、酔った勢いで体を触り、周りもその場の雰囲気に流されて注意等をしない。
・控室において、下ネタを大声で言いながら、周りの反応をみて笑っている。
・女性議員が同じ会派の男性議員に対して無理やり体を密着させる。
・酒席の大勢の前でチークダンスを強要し、胸などを触られる。

◆妊娠すると批判 「女は黙っとけ」「何様だと思ってるんだ」

・任期中に妊娠したことにより、批判を受ける。
・小さな子供がいて大変だろうということで、役職を外される。
・妊娠中のつわりがひどく、会合を欠席すると「子どもを理由に欠席が続くと、この会派から外れてもらうよ」と脅される。
・本会議で質問中に「何様だと思っているんだ」「女は黙っとけ」というヤジを激しく飛ばされる。
・当選回数が多く声の大きい男性議員から、少数会派の女性議員が繰り返しヤジを受け、その恐怖から議会での発言がしづらくなる。
・同一会派内で政策の方向性を議論している際、年長議員から「反対するなら退会しろ」と恫喝されるなど、威圧的な圧力をかけられる。

ハラスメントは「議員から議員へ」だけではない。有権者から議員に対するパワハラやセクハラもある。内閣府が今回収集した実例では、「議員から議員へ」のハラスメントよりも「有権者から議員へ」のほうが、割合は多かった。

有権者から議員へのハラスメント

◆違法のおそれのある行為を迫られ 執拗に食事や交際を迫られ

・自宅に繰り返し電話をされ、「税金泥棒だ」「24時間対応できないなんて議員失格だ」と言われる。
・選挙中にプライベートな事柄(人間関係、宗教等)でネットにデマを流されたり、家族や兄弟のことで嫌がらせを受ける。
・投票したのだからと、違法のおそれのある行為等を迫られる。
・勝手に通販の注文をされ、注文していない商品が大量に届く。
・幾度にもわたり、執拗に食事の誘いや交際等を迫られる

全国市議会議長会の理事会の様子。高齢の男性ばかりが目立つ=2020年度(同会のHPから)
◆「当選させたのは俺だからキスさせろ」

・自宅の電話番号や住所等の個人情報をSNS上に無断で公開される。
・異性との交際関係等を暴露される。
・選挙活動中に支援者から体を触られたり抱きつかれたりする。
・ヌード写真や有権者本人の性生活についてメールで繰り返し送りつけられる。
・当選させたのは俺のおかげだからと無理やりキスをしたり、身体接触を求められる。
・ポスターにわいせつな内容を書き込まれる。

◆「次も立候補したいなら妊娠してる場合か」

・産休を取得したことにより、仕事をしない議員というデマを選挙中に流された。
・次の選挙にも立候補したいなら、妊娠している場合かと非難される。
・妊娠は病気じゃないから、陣痛がくる直前まで働くべきと言われる。

◆ただごとではない根腐れ感

この実例を収集したのは、内閣府の「政治分野におけるハラスメント防止研修教材等の作成に関する検討会」の事務方である。文字通り、ハラスメントを防ぐための研修用動画を作るための会議である。パワハラ教材だけでなく、「地方議会・地方公共団体における政治分野に係る男女共同参画の推進に向けた優良取組事例集」の作成に関する議論も行うという。

しかし、内閣府が収集した一連の実例を見ていると、根腐れ感はのっぴきならないものがある。ハラスメントに手を染め恥じぬ議員たち、ハラスメントを犯していることすら気づかぬ議員たち。彼らは何のために議員バッジを求めたのか。

■参考
『政治分野におけるハラスメント防止研修教材の作成について』(内閣府 2022年1月13日)
『“公務パワハラ列島”と化した行政職場 懲戒処分などのニュース途切れず』(フロントラインプレス 2022年1月6日)
『なぜやまぬ「介護ハラスメント」 セクハラや暴言 7割超の職員が経験』(フロントラインプレス 2020年2月20日)

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