第22回「毛ぼうし」〜療養中のPANTAが回顧する青春備忘録〜

ムーンライダースの20周年記念シングル「ニットキャップマン」の発売に合わせて、岩井俊二監督がミュージックビデオを制作するということを聞き、外部の人間ではあるが、これはご祝儀を兼ねて出演しなければなるまいと勝手に思い込み、慶一の返事も聞かず、じゃオレの忍び装束でも持っていくからと言って、現場に乗り込み、鈴木慶一及び岩井俊二監督を困惑させたことがある。せっかく洒落た小津安二郎の『東京物語』風に予定していたミュージックビデオが突然の忍者の出現に役も与えなければならず、糸井重里氏も含め、さぞ困り切ったことだろう。今になって本当に申し訳なく思う。 と、このような経緯だったと思う岩井俊二監督のムーンライダース20周年記念ショートビデオ『毛ぼうし』。結局、竹ぼうきを持って糸井重里氏を尾行する通行人に扮した忍者として、物語のなかに脈絡もなく登場してくることになったのだが、まったくその節はずいぶんとご心労&大迷惑をおかけしたことをこの場を借りて謝罪します。 そしてその後、アルファレコードが押す“太陽の塔”という大阪出身のグループのプロデュースを自分がすることとなった。山中湖で1カ月泊まり込みでレコーディングなんぞしていたのだが、ある日、コマーシャルの話が振られてきた。それもパナソニックノートパソコンの1分コマーシャルで、監督は岩井俊二監督だと聞かされる。 おっ、さぞあのときの悪夢が岩井監督の脳裏に浮かび上がっているのだろうなと申し訳なく思いながら、現場に乗り入れると、栃木は益子焼の陶芸家の役である自分が、ろくろを回す座布団の撮影位置がもうセットされている。この1分コマーシャルは、以前、バンドを楽しんだことのある仲間たちが社会に出てバラバラになり、離れてしまった仲間たちと、パナソニックのノートパソコンを使って、今で言えばオンラインでセッションしようというコマーシャル。自分はその主役のボーカルの井垣宏章が、益子で陶芸家を目指しながら働き、久しぶりの仲間たちとの連絡に心を躍らせるシーンで、後ろでろくろを回している陶芸の師匠という役なのだ。 が、ろくろを回し、さっきまでツボを作っていたはずが、いつの間にか拡がってしまい、限りなく皿のようになってしまっていた。今となっては撮影のカメラにどう映っていたのかは記憶にない。しかしそのときに痛感した。世の中、簡単そうに見えることこそ難しい。舐めてかかっちゃいけないのだと、岩井監督以上に、ろくろ様にひれ伏すばかりであったのだ。

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