「語り伝える」の停滞

 のっけからおわびです。全国コンクール「ハガキでごめんなさい」の入賞作を紹介した16日の小欄で、壱岐市立勝本中の若宮紅音さんの作品を、別人のものと取り違えました。筆者の早合点です▲実際の若宮さんの入賞作は、問題集かノートの上で猫がすやすや眠るイラストが描かれ、そばに〈飼い主へ いつも寄って来ないくせに勉強のときは邪魔してごめんね〉と猫のコメント。想像力豊かな作品です▲さて、気を取り直して-。手書きのはがきはほの温かく、メールの短文も人の心を揺さぶる時がある。子どもたちに体験を語り伝える人の言葉はさて、どうだろう。「ずしんとくる」というのがきっとふさわしい▲昨年12月下旬、長崎市の被爆者、三田村静子さん(80)と久しぶりにお会いし、柔らかな笑顔でご報告を受けた。新型コロナの第5波に襲われた夏場はぱったりだった修学旅行生への被爆体験の講話が10、11月はぐんと増えた、と▲ふた月で35回ほどの講話をこなした。多忙を極めたが、それでも語ること、伝わることの喜びをかみしめたという▲今また、修学旅行のキャンセルが相次ぎ、近く予定されていた講話も中止されたらしい。経済活動が滞る危機にあるいま、語り伝える活動も停滞にさらされる。ずしりと重い、広がるべき言葉が広がらない。(徹)

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