吉開菜央監督の新作『Shari』がロッテルダム国際映画祭に公式選出! 選出理由についてのコメントも到着!

現在全国公開中の吉開菜央監督の最新作『Shari』(63分)が、 2022年1月26日~2月6日に開催される第51回ロッテルダム国際映画祭の短・中編部門に公式選出された。 今回、 映画祭から特別に選出理由についてのコメントも到着。 ロッテルダム国際映画祭は、 約30万人が来場する世界最大規模の映画祭で、 ヨーロッパではカンヌ、 ヴェネツィア、 ベルリンと並び世界で最も重要な映画祭のひとつ。 毎年、 短・中・長編合わせて570作品が、 およそ90カ国から公式選出され、 特にインディペンデント映画制作を行うコミュニティに、 広く多様な観客へ作品を届ける機会を与えることを重視している。 今回、 短・中編部門には、 28カ国から全部で60作品が選出され、 日本からの選出は『Shari』を含め3作品のみ。 第51回ロッテルダム国際映画祭は、 新型コロナウイルス感染症の影響により現地開催は見送られたものの、 一部のプログラムだけがオンライン開催される。 そこで『Shari』は業界関係者向けにオンライン上映され、 本映画祭上映が日本国外では初のお披露目になる。

この作品は、 北海道知床半島斜里町の人々が、 撮影を務めた写真家の石川直樹と共に、 新しい知床の一面を発見、 発信するために結成したプロジェクト「写真ゼロ番地 知床」の実行委員会が主催する「TOP END4」という展示企画として始まった。 そのゲスト作家として、 石川がダンサー・振付家・映画作家の吉開菜央に声をかけ、 北海道の知床半島斜里町で一緒に映画をつくらないかと持ちかけたことで、 『Shari』は生まれた。 石川にとって、 これが初めての映画の撮影となり、 吉開にとってはこれが初めての長編映画となった※1。 また、 本作の撮影は基本的にたった4人のチーム(監督・撮影・助監督・録音/音楽)で行われたが、 写真ゼロ番地知床実行委員会のメンバーおよび斜里町の方々の多大なる協力のもとに実現したもの。(※1: ロッテルダム国際映画祭では、 英語字幕版『Shari』がクレジットロールを除くと61分未満であったために短・中編部門での選出。 ) 監督の吉開菜央は、 米津玄師『Lemon』のミュージックビデオへのダンサーとしての出演やカンヌ国際映画祭監督週間に正式招待された『Grand Bouquet』、 文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門で新人賞を受賞した『ほったまるびより』などの短・中編映画の監督として知られ、 自らの心身に蓄積した経験・感覚・気配・記憶などを、 あらゆるメディアで表現するダンサー・振付家・映画作家。 映画にとどまらず多様な分野で活動している。

『Shari』は、 監督兼「赤いやつ」である吉開菜央が、 斜里町での取材を通して得た疑問や気づきを、 ドキュメンタリー・フィクション・エッセイ・詩・音楽などさまざまな表現方法を組み合わせて映画にしたもの。 斜里町に住む市井の人々へのインタビュー映像・音声が、 監督の個人的な妄想とかけ合わさることで、 土地についての断片的なエピソードが寓話的に紡がれている。 それらは、 あくまで監督の視点と言葉で語られていますが、 客観的に見てどこまでがフィクションで、 どこからが本当のことなのかが判然としないところも、 また妙味です。 そして、 写真家の石川直樹だからこそ捉えることのできた、 予定調和に収まらない偶然や奇跡に溢れた映像は、 2020年の斜里町の人々の現実の生活や心根を、 優しく描き出している。 今回の公式選出に際して、 ロッテルダム国際映画祭から、 特別に選出理由についてコメントをいただきましたので、 翻訳した上で以下に引用。

選出理由

日本の北の果てを舞台に、 探索的なダンスや映像の要素で知られる吉開監督が、 独自の表現方法によってその地域を遊び心いっぱいに描き出した作品になっています。 ASMR※2風の調子も小気味良く、 映画の設定と相まって、 この作品をユニークなものにしています。 これらの特色が、 審査委員会を納得させました。 ここ数年、 ロッテルダム国際映画祭の短・中編部門では、 日本からの作品をあまり多くは選出してきませんでした。 唯一日本からの常連ゲストとなっているのは、 我々が何度も上映してきた、 牧野貴監督のみとなります。 (※2: 人が聴覚や視覚への刺激によって感じる、 心地良い、 脳がゾワゾワするといった反応・感覚のこと)

石川直樹(撮影) コメント

斜里町のある知床半島は日本列島の北の隅にありますが、 一方でその先にある北方世界へと大きく開けた土地でもあります。 そのような地で撮影された小さくても自分にとって大切な映画が、 国際的な映画祭に選出され、 広く世界へ羽ばたいていくことはとてもとても嬉しいことです。 少しでも多くの、 世界中の皆さんに観てほしいなあ、 と心から願っています。

三嶋慎太郎(写真ゼロ番地知床実行委員会) コメント

石川直樹さんと写真や映像などを通して知床半島・斜里町の魅力を再発見する「写真ゼロ番地 知床」に、 2016年の発足時から関わっています。 役場商工観光課の職員という立場で、 「とにかく斜里の良さを伝えたい!」という思いでやってきました。 石川さんの力を借りて、 毎年素敵な作品展を開催してきましたが、 まさか映画を作ることになるとは思わず、 正直、 めっちゃ大変でした。 出来上がって、 何度も鑑賞する内に、 もしかしてこれは、 何か大切なことを伝えられるかもしれないと思うようになりました。 多くの町民の皆さんのおかげで完成したこの作品が、 皆さんに届けられて嬉しいです!

吉開菜央(監督) コメント

なんの悩みもない全力の笑顔で「ぜひ観にきてください!」と言い辛い状況です。 自分のしていることと、 世の中で早急に必要とされていることに矛盾を感じることも多々あります。 それでもわたしは、 自分がその時々に納得できる方法で作品をつくり誰かに見てもらうということを、 諦めたくはありません。 わたしは映画づくりを通して、 世界と関わり続けたいです。 作品をつくることはどういうことか、 その覚悟を映画『Shari』ははっきりと正面きって、 わたしに教えてくれました。 Shari・斜里・シャリ、 ありがとう。 世界中の良き大地に、 その魂が届きますように。

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