1000人以上の大型募集、20年ぶり高水準 コロナ禍で実施企業の二極化加速【2021年上場企業「早期・希望退職」募集状況】

 2021年に早期・希望退職募集を開示した上場企業は84社だった。前年の93社から9社(9.6%)減少したが、2年連続で80社を超えた。2年連続の80社超は、リーマン・ショック後の2009年(191社)、2010年(85社)以来、11年ぶり。新型コロナ感染拡大の影響が長引く業種を中心に、募集企業の数は高水準で推移している。
 募集人数は、人数を公表した69社(若干名除く)で1万5892人に達した。前年の1万8635人から2743人(14.7%)減少したが、2年連続で1万5000人を超えた。2年連続で1万5000人超は、2002年(3万9732人)・2003年(1万6833人)以来、18年ぶり。新型コロナが直撃した鉄道、観光関連、アパレルのほか、製造業などでも目立ち、1000人以上の募集が5社と高い水準で推移した。
 業種では、新型コロナの影響が長引くアパレル・繊維製品が11社で、前年(18社)に続き、2年連続で最多となった。このほか、観光関連(4社)は2010年以来、11年ぶりに発生した。また、移動制限、人流抑制が直撃した鉄道・航空を含む交通インフラも8年ぶりに募集した。
 2022年も1月中旬ですでに9社の実施が判明している。変異株「オミクロン株」の感染が急拡大し、1都15県で「まん延防止等重点措置」が適用される。円安、原油高騰などで「悪い物価上昇」も懸念されるなか、消費動向の行方が注目されるが、「早期・希望退職」は業績不振の企業を中心に“赤字リストラ”が引っ張る形で、2022年も実施社数は2020年、21年並みの高水準で推移するとみられる。

  • ※本調査は、早期・希望退職者募集の実施を開示し、具体的な内容を確認できた上場企業を対象とした。対象期間は、実施期間が2021年1月1日以降、あるいは応募社員の退職日が2021年12月末までの募集とした。なお、実施期間が2022年1月1日以降の企業は対象外とした。

募集人数、1000人超は5社 一方でコロナによる業績不振企業の小・中規模募集も

 募集人数は、最多が日本たばこ産業の2950人(パートタイマー、子会社の従業員含む)。次いで、本田技研工業(約2000人)、KNT-CTホールディングス(HD、1376人)と続く。募集人数1000人以上の企業は5社で、小泉政権の「骨太の方針」が閣議決定され、年末に完全失業率5.4%を記録した2001年の6社に次ぐ、統計開始(2000年)以降で2番目の高水準となった。
 ただ、構成比は100人以下(若干名含む)が50社(構成比59.5%)と、小規模募集が約6割を占めた。また、101人~300人の募集は15社(同17.8%)で、300人以下の募集が約8割(同77.3%)を占めた。
 人数非開示の企業は10社(同11.9%)だった。
 1000人以上を募集した5社のうち、新型コロナが経営を直撃した観光業のKNT-CTHD以外の4社は製造業で、かつ募集直近の通期決算が黒字だった。

業種別 アパレル・繊維製品が11社で2年連続トップ

 早期・希望退職者募集を開示した84社の業種別は、最多はアパレル・繊維製品で11社(構成比13.0%、前年18社)。次いで、電気機器10社(構成比11.9%、前年11社)、観光(4社)を含むサービス7社(構成比8.3%、前年6社)と続く。
 アパレル関連や観光等のBtoC業種が上位を占めた。また、運送は6社のうち、4社が鉄道、1社が空運とコロナ禍で乗客・稼働数の落ち込みが深刻だった交通インフラが大半だった。
 空運は2013年以来、8年ぶりの実施。鉄道も2003年以来、18年ぶりの実施となった。
 2020年にそれぞれ7社だった外食と小売は、21年はともに4社に減少した。両業種とも上半期に集中的に募集し、外食は緊急事態宣言が全面解除された10月以降、募集はなかった。

早期希望2021の業種

通期損益 募集企業の半数以上が赤字

 募集企業の直近本決算の当期損益は、56.0%(47社)が赤字だった。アパレル関連は、各社の募集発表直近で11社すべて赤字。サービス業でも、観光4社はいずれも赤字だった。外食も実施の4社はすべて赤字。また、空運・鉄道の交通インフラ5社もすべて赤字だった。
 一方、募集人数1000人以上の5社では、観光のKNT-CTHDを除き、4社は黒字だった。さらに、繊維製品を除く製造42社では、黒字が23社、赤字が19社と黒字が赤字を上回り、「年齢構成是正」や、先行きの需給動向を見通した「先行型」、「製造・営業拠点の集約」などを目的にした黒字企業の募集が散見された。

早期希望2021の損益

「赤字企業による小・中規模募集」と「黒字企業による大型・先行型の募集」の二極化進む

 2021年に「早期・希望退職」を募集した84社のうち、1000人超の大型募集を5社が実施した。これは2002年、2009年、2019年の4社を上回り、2001年(6社)に次ぐ2番目の水準となった。  新型コロナ感染拡大で経済活動が停滞した2020年は、1000人超の募集は2社にとどまった。しかし、コロナ禍2年目の2021年は、ナショナルブランドを手掛ける大手メーカーを中心に、人件費等のコスト削減に着手したことで、黒字の企業でも大型募集が散見された。
 2021年に募集した84社のうち、半数以上の47社(構成比56.0%)は直近本決算で赤字を計上した。だが、大型募集した5社では4社が黒字で、「赤字企業による小・中規模募集」と「黒字企業による大型・先行型の募集」の“二極化”がコロナ禍で加速した格好となった。
 厚生労働省によると、2021年11月の全国の有効求人倍率は1.15倍で、2020年秋に1.04倍で底打ちして以降、回復基調にあったが、21年夏以降は1.1倍台が続いている。“雇用の流動化”が叫ばれたコロナ前(2018~19年、1.6倍台)には、まだほど遠い状況といえる。2022年に入り、第6波も懸念される局面で、BtoC業種や対面型サービス業関連では“人余り”の局面が再び強まる可能性も出てきた。
 2022年に募集を発表した企業は、1月19日までに9社が判明している。人数の最多は遊戯機器メーカー、平和の250人。募集人数は9社のうち、6社が100人以下だ。コロナ禍で業績不振が長引く企業を中心に、拠点や事業所、部門の廃止など、事業見直しを迫られた小規模実施が後を絶たない。
 製造業を中心に、先行きが不透明なコロナ禍にあっても社員の“年齢構成是正”や、デジタル分野の強化等の流れは続いている。国内の早期・希望退職は2022年も黒字企業による大型募集、コロナ直撃による小・中規模募集の二極化は継続するとみられ、募集企業数は2021年と同等か、それを上回る可能性も現実味を帯びている。

早期希望2021の1

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