オミクロン株急拡大で想定すべき事態は 医療現場が恐れる「数の力」

第6波で使用されている治療薬の一つ「ソトロビマブ」

 新型コロナウイルスの感染者が急増する中、患者を受け入れる国立病院機構栃木医療センターの矢吹拓(やぶきたく)内科医長(42)が21日までに下野新聞社の取材に応じ、「最悪を想定して備える必要がある」と訴えた。クラスター(感染者集団)が相次ぎ高齢者の入院も増加。確保した病床は6割強が埋まった。変異株「オミクロン株」のかつてない感染拡大で「数の力に圧倒される」と、医療全体に影響が及ぶことも危惧している。

 矢吹医長は病院でコロナ治療に携わるほか、宿泊療養施設の看護師や保健所職員の業務も支援してきた。

 同センターは54床をコロナ患者用に確保する。現在は高齢者や基礎疾患がある人など重症化リスクの高い人の入院に対応。約1年前の第3波や昨夏の第5波と比べ、重い肺炎で酸素投与が必要な人は非常に少ないという。矢吹医長は「ウイルスの変異やワクチン接種に加え、抗体療法など発症早期の治療が増えたことが影響しているのではないか」と指摘する。

 発症から10日経過後に退院可能だが、症状が安定した患者はその前に宿泊療養へ移ることも多い。急な感染拡大に対し、病床の回転率を上げて必要な患者に適切な治療ができる環境を整える。「宿泊療養施設の受け入れが増えたことも効果的に働いている」とみる。

 一方、感染者が急激に増え続ける現状に危機感を強める。高齢者の入院が急増し、結果的に重症者の増加につながる恐れもある。矢吹医長は「高齢者へのワクチンの3回目接種が間に合わなかったことも要因かもしれない」と推定。「マスク着用やワクチン接種など、感染対策は引き続き重要だ」と呼び掛ける。

 通常診療への影響も危ぶむ。栃木医療センターでは職員が濃厚接触者となり、業務できなくなったことがある。「同じ事が同時に複数発生すれば、病院機能が回らなくなる」。検査を毎日行うなど一定の条件を満たせば濃厚接触者でも業務できるとされるが「院内感染のリスクもあるため避けたい状況だ」と懸念する。

 重症化する割合が少ない現状に、矢吹医長は「状況によって対策を緩めていく議論はあった方がいい」とする。一方で「新たな変異株が出てくれば、対処法も変わる。確実なことが言えない中で我慢を続けることは困難が多いが、臨機応変に最適解を考え続ける必要がある」と訴えた。

第6波で使用されている治療薬の一つ「ソトロビマブ」を手にする矢吹医長。早期治療の手立ては増えているという

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