第24回「リッケンバッカー360/12」〜療養中のPANTAが回顧する青春備忘録〜

PANTA&HALの頃から公私にわたり懇意にしていただいている日本IT業界の重鎮K氏にはずいぶんとお世話になっている。その昔、大蔵省がわれわれの言うことを聞いてくれていれば、コンピューターの世界でアメリカの一歩も二歩も先んじられていたのにと苦言を呈していたことがいまも強く記憶に残っている。 そんな彼がある日、「今度、サンフランシスコのシンポジウムに顔を出すのですが、ちょうど楽器フェア(NAMM Show?)をやっているようなので、何か欲しいものはありますか?」と聞いてくれた。それならばと遠慮というものを知らない自分は、即座にリッケンバッカー360/12を指定リクエストさせてもらった。ただでさえ左利きでギターの選択などできない当時の日本の状況の中、まさか自分があのジョージ・ハリスン、バーズのロジャー・マッギンと同じリッケンバッカー360の12弦をリクエストできるなど半信半疑の夢見心地の中、何カ月か忙しく活動にいそしんでいたある日のビクタースタジオに、部下に黒いケースを持たせたK氏が現れたのであった!! このときの嬉しさは言葉にできない。今なら、あっ、今はコロナだから駄目だが、思いきり飛びついてK氏を抱きしめたい思いだった。 話を聞いてみると会場に足を踏み入れ、リッケンバッカーのブースに行き、中にいた男に機種を指定し、「これのレフティーが欲しい」と言うと「何本欲しいんだ?」、K氏が「1本だ」と返すと「1本じゃ売れない」と一歩も譲らなかったらしい。それはそうだ。業者同士の楽器市なんだからと話を聞いていても相手に同情してしまう状況の中、K氏が「じゃ社長を呼んでくれ」と強気に出ると「オレが社長だ」と返されたらしい。それからどういう経緯でリッケン360のレフティを手に入れたのかはわからないが、そんな苦労をかけながらサンフランシスコから運んでくれたK氏なのだから、一生足を向けて寝られまい。 その後、ファンには悪評の『KISS』などで使わせてもらい、自分的には大満足だった360だったのだ。『KISS』騒動後のライブでもスタッフには他の音と混ざらないとさんざんこき下ろされ、お蔵入りになっていたリッケンバッカー。先ほどのピーナッツバター再結成でまた陽の目を見ることとなり、心から嬉しい限り。今は療養中であるが、再起動の折には、また思いきりエッジの効いたリッケンのサウンドをかき鳴らしたいものだ。

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