NHKの連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』のキー・チューンとして使用されていることで一躍脚光を浴びている「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」。劇中ではサッチモことルイ・アームストロングの歌がたびたび流れますが、実際彼はこの曲を気に入っていたようで、ライヴでも頻繁に取り上げ、少なくない数の音源も残っています。
そんな中、なにはなくとも聴いておきたいのは、やはりドラマの中で使われているヴァージョンでしょう。これはサッチモが1933年から34年にかけて欧州楽旅した際パリで録音したもので、エレガントなテーマ・アンサンブルに続きメロディをフェイクしながら入ってくるヴォーカルはまさにこの人の真骨頂。
とりわけ後半部分の歌心にあふれたアドリブを聴けば、なぜサッチモがジャズ・ヴォーカルの父と呼ばれるのかおわかりいただけるでしょう。ちなみにこの時はインストゥルメンタル・ヴァージョンも録音されており、そちらでは彼のトランペットをたっぷりと聴くことができます。
<動画:On The Sunny Side Of The Street (10-?-34)>
この3年後の1937年、今度はロサンゼルスで彼はこの曲をレコーディングしています。少し速めのテンポで各メンバーのソロをふんだんにフィーチャーしているあたり、ジャズっぽいテイストがより増している印象。サッチモの歌もトランペットも、創造的でありながらどこまでもメロディックで、これぞジャズ・インプロヴィゼーションの原点というパフォーマンスになっています。
<動画:On The Sunny Side Of The Street>
名ライヴとして名高い1947年11月のボストン・シンフォニーホールにおけるコンサートでも、この曲は取り上げられています。ジャック・ティーガーデン、バーニー・ビガード、ディック・キャリー、アーヴェル・ショウ、ビッグ・シド・カトレットという目もくらむような面々との演奏は、集団即興を土台としながらすべてが完璧に調和している見事なもの。完成度とリラクゼーションが美しく併存したこんな音楽は、もはや現代では再現不可能でしょう。
<動画:On The Sunny Side Of The Street (Live At Symphony Hall, Boston, MA/With Applause/1947)>
1956年12月に、サイ・オリヴァー率いるオーケストラをバックに吹き込まれたヴァージョンも名演です。トラミー・ヤング、エドモンド・ホール、ラッキー・トンプソン等々の豪華なメンバー。隅々まで目の行き届いたオリヴァーのアレンジ。それをバックに奔放かつ愛情を込めて歌い、吹くサッチモ。音質の良好さも含めて、これは彼の「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」の集大成といえるかもしれません。
<動画:On The Sunny Side Of The Street>
もちろんこの曲、サッチモ以外にも多くのジャズ・ミュージシャンが名演名唱を残しています。
まずビリー・ホリデイ。これを録音した当時のホリデイは絶頂期で、ゆらゆらとたゆたうような独特のビート感とニュアンス豊かな表情付け、そして絶妙なメロディ・フェイクはまさにジャズ・ヴォーカル女王の名に恥じないものです。
<動画:On The Sunny Side Of The Street>
そのホリデイと並ぶ名唱を残しているのがエラ・フィッツジェラルド。カウント・ベイシー・オーケストラの豪快な演奏をバックにしたその歌は余裕と楽しさに溢れていて、これを聴けばこの世の憂さも少しは晴れようというものです。
<動画:On The Sunny Side Of The Street>
フランク・シナトラの歌声も、このナンバーの明るい曲想にピッタリです。「コートをつかんで帽子をかぶり、心配事はとりあえず置いといて、日なたの道を歩けば人生は素敵になるさ」と彼が歌うと、それが現実になると思えてくるのですから、音楽の力とはすごいものです。
<動画:On The Sunny Side Of The Street (Remastered)>
ディジー・ガレスピー、ソニー・スティット、ソニー・ロリンズによる「サニー・サイド」は、この顔合わせから想像されるような丁々発止のバトルとはならず、各人が個性を発揮しながらもバランスの取れたものとなっているところが、逆に懐の深さを感じさせる演奏。後半部分ではガレスピーが、自慢の(?)喉も披露しています。
<動画:On The Sunny Side Of The Street>
文:藤本史昭
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