山本由伸の進化とは? 投手5冠と支配した2021年、成長続ける5年間にデータで迫る

オリックス・山本由伸【写真:荒川祐史】

山本は1軍定着後は4年連続で防御率2点台以下

記録にも記憶にも残る、圧巻の投球だった。オリックスの山本由伸投手は、2021年に最多勝、最高勝率、最多奪三振、最優秀防御率の投手4冠のほか、沢村賞、リーグMVP、ベストナイン、ゴールデングラブ賞を獲得。まさしく日本球界を席巻するピッチングを見せた。

今回は、山本のこれまでの活躍を振り返るとともに、セイバーメトリクスにおける各種指標や、結果球の球種割合といった要素について、シーズンごとに比較していく。成長を続ける若きエースが、2021年にさらなる進化を果たした理由に迫りたい。

山本がこれまで記録した年度別成績は以下の通り。

山本由伸投手 年度別成績(C)PLM

山本は都城高校から、2016年のドラフト4位でプロ入り。高卒1年目の2017年に、先発として早くも1軍プロ初勝利を挙げると、翌2018年には中継ぎに転向して1軍に定着。快速球と鋭く落ちるフォークを武器にリーグ2位の32ホールドを記録し、自身初のオールスター出場も果たす飛躍のシーズンを送った。

プロ3年目の2019年には先発に再転向すると、前年を上回る抜群の安定感を発揮。自身初の規定投球回に到達して防御率も1点台と出色の投球を見せ、自身初タイトルとなる最優秀防御率を獲得した。続く2020年も先発の柱として活躍し、リーグ2位の防御率を記録。自身初の最多奪三振を受賞し、2年連続で主要タイトル獲得を果たした。

リーグ屈指の先発右腕としての立ち位置を確立していた山本だが、2021年はこれまで以上に支配的な投球を見せた。2020年までは好投しながら勝ち星に恵まれない登板も多かったが、シーズン18勝と一気に「勝てる投手」に。自身初の年間200奪三振超えも記録し、防御率は驚異の1.39。まさに、歴史的な快投と形容できる活躍ぶりだった。

以前はそこまで多く三振を奪うタイプではなかったが……

続けて、山本が各シーズンで記録してきた各種の指標について見ていこう。

山本由伸投手 年度別指標(C)PLM

2019年までは3年続けて奪三振率は7.00台と、そこまで多くの三振を奪う投手ではなかったといえる。しかし、2020年に初めて投球回を上回る奪三振数を記録し、奪三振率10.59という非常に優れた水準に到達。続く2021年も奪三振が投球回を上回っており、ここ2年間で投手としてのタイプも変化していたことがうかがえる。

与四球率に目を向けると、プロ入り以来5年連続で2.80未満。制球面から大きく崩れたシーズンは皆無だったと言えよう。そんな中でも、シーズン防御率が1点台だった2019年と2021年は、他の年よりも与四球率が優秀な傾向にあった。特に2021年の与四球率は自身初の1点台に到達しており、山本の制球力はその圧倒的な投球の根幹を支えている。

また、投手の制球力を示す指標の1つである「K/BB」は、一般的に3.50を上回れば優秀とされる。そんな中で、山本は先発再転向後の2019年以降は、3年続けてその水準をクリア。毎年その数字を向上させており、2021年には5.15という驚異的な領域にまで達している。

被打率に関しても、1軍に定着した2018年以降は4年続けて.200台以下と優秀だ。直近2年間は被打率.180台と素晴らしい水準で、被安打を許すこと自体が稀だった。与四球も被安打も少ないことにより、1イニングごとに出した走者の数を示す「WHIP」は、3年続けて1未満という抜群の数字となっている。

以上のように、ここ2年間、山本はランナーを背負うケース自体が少なくなっていることがわかる。それに加えて、唯一のウィークポイントであった奪三振率も改善され、守備に左右されることなく、独力でアウトを奪えるようにもなった。山本が年々安定感を増している理由は、抜群の数字が並ぶこれらの指標が雄弁に物語っている。

毎年ハイレベルな投球を見せるが、球種の割合は少しずつ変化

球種の面では、150キロ台後半に達する快速球と、140キロを超える速度から鋭く落ちるフォークが、山本の大きな武器だ。それに加えて、フォークと同じく140キロ台の球速で変化するスライダーとカットボール、150キロを超える速さで変化するツーシーム・シュートと、速球と見紛うようなスピードで変化するボールが大半となっている。

他の投手では見られないような、高速かつ切れのある変化球が5つ以上備わっている中で、カーブは120キロ台とブレーキが利いており、他の球種と20~30キロほど球速差がある点も見逃せない。速い球だけを意識していたらカーブで簡単に見逃しストライクを取られてしまうところも、山本の攻略を難しくしている。

そうした球種の使い分けを把握するための一助として、山本が1軍に定着した2018年以降の4年間における、ポストシーズンも含めた結果球の割合を紹介したい。

山本由伸投手 2018年結果球割合(C)PLM

中継ぎを務めていた2018年は、速球、フォーク、カットボールの3球種が結果球の大半を占めていた。リリーフ投手は多投する変化球の種類を絞り、決め球の割合を増やしていく傾向にある。山本の場合もその例に漏れず、短いイニングを抑えきるために効果的な球種を多投していたといえよう。

山本由伸投手 2019年結果球割合(C)PLM

だが、先発に転向した2019年にはカーブとスライダーの割合を増やし、的を絞らせない投球術が見られるように。ハイレベルな変化球を多く持ち合わせる山本にとっては、機を見て多彩な持ち球を使い分けられる先発への再転向が、さらに強みを活かす投球スタイルにつながったとも考えられる。

山本由伸投手 2020年結果球割合(C)PLM

2020年は奪三振率が大きく向上、カーブの割合アップ

2020年は先述の通り、奪三振率が大きく向上したシーズンだった。前年に比べてカーブの割合が大きく増え、ツーシームを廃して一本化したシュートも10%を超える割合に。いずれの球種にも一級品の威力があるだけに、それらをバランスよく投げ分けることにより、打者にとってはこれまで以上に的を絞りづらくなっていたと言えそうだ。

山本由伸投手 2021年結果球割合(C)PLM

しかし、2021年はストレート、フォーク、カーブの割合がそれぞれ増加し、代わりにシュートの割合が大きく減少。150キロを上回るストレート、140キロ台のフォークとカットボール、120キロ台のカーブという、3つの球速帯で勝負する傾向が強まっている。わずかに低下した奪三振率も十分に優秀な水準を維持したうえで、防御率を大きく向上させたところにも、これらの変化が効果を発揮したことが表れている。

現状に満足せず常に高みを目指す姿勢

山本は中継ぎとして頭角を現したものの、先発転向後は豊富な球種をより活かせるようになった。その後も現状に満足することなく、毎シーズン球種の配分を変えていることが、データからも読み取れる。そうした向上心に溢れる姿勢と、引き出しの多さに基づく優れた投球術によって、まさに難攻不落と呼べるだけの投球が生み出されている。

今や球界最高の投手の1人となった山本だが、新シーズンに向けてさらなる成長を期していることは間違いない。すなわち、指標の面でも毎年進化を続けている若き剛腕が、昨季以上の快投を見せてくれる可能性も十分にあるということだ。

山本のピッチングは見ているだけで圧倒されそうになる領域にまで達しているが、「昨季に比べてどこが変化したのか」に注目してみると、その投球をこれまで以上に楽しめるようになるかもしれない。飽くなき進化を続ける若き大投手に、2022年も要注目だ。(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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