第26回「PANTAX'S HORNS ②」〜療養中のPANTAが回顧する青春備忘録〜

錚々たるメンバーで結成されたPANTAX'S HORNSが全面参加するアルバム『PANTAX'S WORLD』、そのホーンアレンジをすることとなった義兄・板谷博が石神井の家を訪れて、居間のテーブルに大量の譜面を広げ、ピアノの前で頭を抱え込んでいる。 「何か問題ある?」と他人事のように声をかける自分に、「馬鹿なのか天才なのかわからなくなってきた……」と、うつむき見つめる鍵盤に呟く声が返ってきた。 問題とされているその曲は、以前、花ノ木哲との芝居のために書き下ろした「三文役者」という楽曲。ちょっと音楽をかじっている者ならその理由はわかると思うが、どうしてこういうコード進行になるのか、そして成立するのか、これをどう解釈したらいいのか、と蓄積された音楽知識で膨らんだでかい頭が破裂しそうになっているらしい。 そのまま放っておきながら別の部屋で用を足していた自分に、小一時間後、「そうか、一個一個小節ごとに転調してると考えればいいのか」という叫び声にも似た一人合点が響いてきた。そんなに大変なことだったのか、ジャズ屋さんだったら半音同士ぶつかったって、代理コードやテンションとして成立するのに、たかが単純なロックでこんなに悩ませてしまうとはご苦労をかけてしまった。そうして卓越したホーンアレンジを施され、Charのイントロで始まるその「三文役者」はおかげさまで大迫力の楽曲となり、無事アルバムに収録することができた。故・板谷博に心からの感謝を。

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