斜面地の空き家問題 佐世保 進む老朽化も眺望に価値 2022長崎知事選 まちの課題点検・4 

佐世保も「坂の街」。空き家活用など斜面地の暮らしの向上に課題がある

 長崎県佐世保市中心部の高台にある峰坂町。江戸時代に整備された「平戸往還」の一部となった坂道が、家と家の間に続いている。
 「ここは空き家。こっちは最近空き地になった」。同町に住む松尾俊さん(73)の自宅周辺には、朽ちた家や手入れされていない空き地が目立つ。松尾さんは昨年から、独自に町内の空き家や空き地を調べている。町内の南側で空き家は少なくとも10棟あった。空き家や空き地が増えたことで、火災や災害、野良猫の問題など、心配事が絶えないという。
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 佐世保市も長崎市と同様に斜面都市だ。港湾を取り囲むようなすり鉢状の地形をしている。戦前は軍港都市、戦後は基地や造船を中心とする産業の発展を背景に人口が増加し、狭い坂道や階段沿いに無秩序に住宅開発が進んだ。だが、玄関先まで車が進入できない家も多く、老朽化や高齢化などで住人が去った後、無人のままの家が増えている。
 市が2015年度に実施した住宅実態調査で把握した空き家は5207棟。このうち斜面住宅地にあるのは832棟だった。斜面住宅地で空き家となった理由は、賃借人の転居、居住者の死亡、建物の老朽化などが挙げられた。
 市は、狭い坂道や階段沿いに老朽化した危険な空き家が密集し、防災面や住環境で問題を抱えている地区の整備に着手。4地区を1999年にモデル地区に選定し、市道の新設を計画した。だが、大型の重機が入らなかったり、家屋の移転先の選定に時間を要したりして、事業は難航した。
 2015年2月に実施したモデル地区の一つ矢岳・今福地区の現地調査では、空き家152棟のうち、140棟には駐車場がなかった。地区全体でも約8割の家屋に駐車場がなく、ますます空き家が増えていくことが想定された。
 市道の新設事業は長期化や事業費が膨らむ見通しとなったため、同地区では、既存の道を拡幅して車道を整備する方針に転換した。
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 不便さばかりが指摘されるが、斜面地ならではの素晴らしさに着目する意見もある。「斜面地は都市の貴重な財産。眺望という点で潜在的な価値が高い」。そう評価するのは、佐世保の斜面地を研究した大阪商業大の石川雄一教授(都市地理学)。佐世保の斜面住宅の多くは「港や湾の眺望が良く、谷筋に対面する長崎市の斜面住宅地のような閉塞(へいそく)感はあまりない」とする。だからこそ、とりわけ眺望の良い斜面地は、居住地だけではなく、観光や市民の憩いの場として積極的に有効活用する必要があると提案する。
 自宅周辺を調査した松尾さんは、眺望や日当たりが良い斜面地暮らしが気に入っている。「楽しいまちにしたいのだが…」。それだけに、空き家の問題が気にかかっている。

住民の生活路として使われている坂道。路地に入ると空き家や空き地が目立つところもある=佐世保市峰坂町

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