60代夫婦「貯蓄2750万円と年金で、年一度旅行を楽しみ、施設に入居できる?」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、63歳嘱託職員の男性。専業主婦の妻と母と暮らす相談者。65歳で完全リタイアし、老後は年に一度夫婦で旅行を楽しみ、75歳から夫婦で共に施設に入居したいと考えています。現在の資産状況で可能でしょうか? FPの飯田道子氏がお答えします。


老後の計画について、実現できるかアドバイスをお願いします。

3年前に60歳で公務員を退職し、現在関連団体の嘱託職員として勤務しています。今後は 65歳までは雇用されることになっています。専業主婦の妻(58歳)、母(90歳)と同居中。子どもは独立して別に居住しています。

今後の希望は、1)年50万程度で毎年旅行をし、2)それぞれが75歳から90歳まで施設(老人ホーム等)に入居することです。二人の年金と現在の資産でできるでしょうか(認知症や病気等で介護なしには生活できない年齢を75歳と考えています)。

前提として、65歳で完全リタイアし、生活は今の水準を確保したいと思っています。わずかばかりの畑があるので、家庭菜園等を行う予定)。家と土地は施設に入居しても処分しない方向で、子どもにそのまま渡したいと考えています(金銭的に余裕があれば更地にしてもよい)。また、子どもの世話にはならない予定です。

【相談者プロフィール】

・相談者:男性、63歳、会社員

・妻:58歳 ・子ども:30歳

・母:93歳、同居、年金12万円/月、デイサービスを利用中

・住居の形態:持ち家(戸建て・東海地方)

・毎月の世帯の手取り金額:23万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:40万円

・毎月の世帯の支出の目安:24万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:1万円(固定資産税を月割り)

・食費:4万円

・水道光熱費:2万5,000円

・保険料:1万5,000円

・通信費:1万5,000円

・車両費:4万円

・お小遣い:4万円

・その他:5万5,000円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:2万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:0円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):2,500万円

・現在の投資総額:200万円

・現在の負債総額:0円

・公的年金は、63歳から月12万円、65歳から夫月18万6,000円、妻月6万円

・個人年金は、夫65歳から75歳まで8万8,000円、70歳(編集部注1:妻の年齢に合わせて75歳として計算)から80歳まで2万円、妻60歳から70歳まで5万円、70歳から80歳まで3万円

・退職金は2,200万円で (編集部注2:60歳で受け取り済みとする)、500万円は個人年金の一時積み立てに、500万円は期間10年の国債に、1,000万円は自動継続の1年定期預金に、200万円は投資信託や株式に運用

【その他】

・退職金以外の預貯金のうち300万円は家の補修費や車の買い替え等に利用予定

・保険等は、火災保険に25万円/年(火災保険用に別に500万円の預金口座あり)

・生命保険等は、夫:死亡時500万円(1万5,000円/月、残期間2年)、妻:死亡時500万円(支払い済み)

・住宅ローンや教育ローン等ローンの残高はなし。

・住宅は築25年経過しているが、要所で補修をしており、直ちに不具合が出ることはないと考えている。

・自動車は2台保有(移動手段として必要な地域のため)。1台は、普通車で2年前に購入(10年から15年は乗るつもり)、もう1台は、軽自動車で購入から5年経過しており、10年前後に買い替える予定。いずれは1台に集約することになると考えているが、時期は未定。

飯田:今回は公務員を退職され、嘱託職員として働いている63歳の相談者様です。65歳で完全リタイアすることを希望されており、生活も現状を維持していきたいとお考えのようです。セカンドライフでは、毎年50万円予算での旅行や、夫婦それぞれが75歳から90歳までの間、老人ホームなどの施設に入所できるのかを知りたいとのことです。また、現在の住まいは売却せずにお子さんへ残すことをお考えです。相談者様の希望は叶うのか、どのような点に注意しなければならないのかを考えてみましょう。

65歳時点の預貯金額は約2750万円に

現在の預貯金額が2,500万円、投資額は200万円となっています。さらに毎月2万円を貯蓄していますので、2年間で48万円上乗せすることが可能になり、完全リタイアを希望する65歳の時点では、約2,750万円が手元にある計算です。

生活は現状維持を希望とのことですが、2年後には保険料の支払いも終えていらっしゃると思いますし、貯蓄を除き、毎月の支出額は22万5,000円となります。

一方の収入は、65歳から受け取れる夫婦の公的年金は月額24万6,000円、個人年金は相談者様が65歳から、奥様60歳からの10年間で、月額13万8,000円、合計で1,656万円を受け取れる計算になります。その後は相談者様が75歳から奥様70歳からの10年間で、月額5万円、合計で600万円を受け取れる計算になります(注:頂いたデータを、妻の受け取り年齢にあわせて計算しています)。

まず、2,750万円のうち、300万円は家の補修費や車の買い替え等に利用予定となっていますので、使えるお金は、2,450万円と、公的年金と個人年金となります。

退職後の支出はどれくらいかかる?

個人年金の月額はほぼ、現状の収入と変わらないため、そのまま生活費としてスライドしてよさそうです。

個人年金にしっかり加入されているため、合計で2,256万円が得られますので、セカンドライフでは、基本的な生活費以外に投資と預貯金額をあわせて、約4,706万円が使える計算になります。

毎年50万円の予算で旅行へ行きたいとのことですが、完全リタイアしてからの10年間とした場合は、500万円の支出になります。旅行資金は個人年金が潤沢にありますので、改めて準備をしなくても良いでしょう。

マイカーの買い替えですが、経過年数を考えて普通車は1回、軽自動車は2回とした場合
の支出は、普通車の費用として250万円、軽自動車の費用として300万円を使うとすると、550万円の支出になります。

旅行代金とマイカーの買い替え費用で1,050万円を支出とした場合は、手元に残るお金は、約3,656万円です。

施設にかかるお金はどれくらい?

さて、最も大きな支出となるのが、施設の入所費用です。施設の入所費用は、入所する場所や施設によって大きな違いがあり、入居一時金だけで3,000万円を超えるところも少なくありません。また、その他にも管理費や生活費などもかかります。1人あたり、毎月15~30万円程度が目安となり、夫婦で入居する場合は、20~35万円程度が目安となります。

ただし、施設の中には入居一時金が数十万円の施設もありますので、結論から申し上げますと、場所や施設を選ばなければ入居できる施設はあります。ただし、そこが相談者様にとって気に入るかどうかは別の話です。

単純計算で毎月の生活費は、食事を自炊にすれば、公的年金と預貯金で十分に賄えると予想されます。入居一時金が夫婦あわせて3,000万円以内で収まれば、生活に困ることはないでしょう。

事前にリサーチをすることをお勧め

相談者様は、まだ若いのですから、今のうちに施設見学に出かけたり、旅行を兼ねて体験入居をしながら、施設選びをしてみてはいかがでしょうか?

高齢者施設は多様化が進んでいるため、都市部や郊外、地方やリゾート地などにさまざまな形態のものがあります。地方でも最寄り駅までの送迎サービスを行っている施設などもありますので、マイカーを手放すこともできます。マイカーを手放せれば、その分のコストも抑えることができますよ。

マイホームは更地にせず保有する

金銭的に余裕があれば、マイホームを更地にすることも考えていらっしゃるようですが、お勧めしません。その理由は、相続時の財産を計算する際に、更地のときよりも建物がある方が相続時の評価額が低くなるからです。

もし、さらに評価額を下げたい場合には、自宅を賃貸に貸し出すのもアリです。賃貸にした場合は収入も得られますので、生活費を上乗せることも可能になります。

相談者様はセカンドライフについて明確なビジョンを持っていらっしゃいますので、このままでも充分に実現できるように思います。ただし、施設に関しては、あまりにも範囲が広くなってしまいますので、どのような施設に入居・入所したいのかを明確にする必要があります。夫婦の新たな目標として、終の住処(すみか)選びをしてみてはいかがでしょうか?

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