手に入れた5年前より動ける体 所属先未定の田澤純一が今季への準備を続ける理由

筑波大学学術指導プロジェクトのサポートの下、トレーニングに励む田澤純一【写真:本人提供】

6年目を迎える「筑波大学学術指導プロジェクト」の効果を実感

オフになると筑波大学を訪れるようになって6年目。今オフもまた、田澤純一投手は「筑波大学学術指導プロジェクト」のサポートの下、黙々とトレーニングを続けている。

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プロジェクトを結成したのは、田澤のパーソナルトレーナーで同大野球部OBの井脇毅氏。メンバーには、井脇氏と同期でスポーツ動作解析の第一人者の川村卓准教授、元五輪陸上選手の谷川聡准教授、外科系スポーツ医学を専門とする福田崇准教授が名を連ねる。

このプロジェクトが目指しているのは、より効果的な投球となる動きができるように体のバランスを整えること。体の各パーツの連動と、動きのバランスを意識したトレーニングは一見すると地味なものだが、田澤は5年間積み重ねてきた効果を感じている。

「初めの頃はできなかった、簡単そうに見える自重運動も今は問題なくできるようになりました。トレーニングの内容自体もステップアップしている。少しずつですが良くなってきていると思います」

プロジェクトがスタートした当初は、投球動作に不必要な筋肉が多く、結果として怪我がちになった。トレーニングを通じて体の動きを制限する不要な筋肉を落とし、スムーズな投球動作をサポートする筋肉を獲得。昨季所属した台湾プロ野球(CPBL)の味全では、レッドソックスで61試合に登板した2015年以降では最多となる58試合に登板したが、体は至って健康のままオフのトレーニングを継続している。

「コロナ禍による中断もあって、レギュラーシーズン最終日は11月21日でした。ワールドシリーズに出た時より長いシーズンで多少の疲れはありましたが、健康な状態で試合を重ねられたのはポジティブな点。自分のイメージ通りに投げられることが増え、トレーニングの成果がだんだん投球とマッチしてきた感覚があります」

スポーツ動作解析の第一人者の川村卓准教授(左)と田澤純一【写真:本人提供】

変わらぬ判断基準「どっちが良い悪いではなく、どっちが自分に合っているか」

レギュラーシーズンが120試合のCPBLで、その半数に近い58試合に登板。味全は50勝67敗3分けだったが、守護神・田澤はリーグ2位となる30セーブを挙げ、球団記録を塗り替えた。若手選手が主体というチーム事情もあり、守備の拙さが手伝って防御率こそ3点台だったが、ストレートは球速150キロ超えが常だった。

35歳ともなればベテランだ。既に引退した選手も少なくない。だが今、田澤が自分に感じるのは「もっと良くなる」という可能性。「これ以上やっても無理だと思ったらやりませんが、少しずつ良くなっている感じがある。だからこそ、続けていきたいと思うんです」という言葉は決して強がりには聞こえない。

米国ではメジャーとマイナーを経験し、2020年は日本の独立リーグ、2021年は台湾で投げた。国が変われば言葉や文化が変わるし、野球の性質も変わる。「いろいろ経験できているのは人生においてプラス」と話す右腕は、2009年に初渡米した当時より格段に対応力を上げたと思うが、本人は「いや、鈍感力だと思います」と笑う。

「国や地域によって当たり前が違うから、自分の物差しで測ることはできません。例えば、日本人には5分前、10分前行動が当たり前でも、台湾では時間ちょうどに来れば上出来。日本では電車が1分でも遅れたらソワソワするけど、アメリカでは時間通りに来た試しがない(笑)。だから、鈍感力が大事。考え過ぎると良くないこともあるなと思います」

生まれ育った日本を離れ、初めて分かった日本の良さがある。同時に、米国や台湾に渡り、初めて分かった価値観もある。「どっちが良い悪いではなく、どっちが自分に合っているか。日本は日本で良いところがあるし、海外は海外で良いところがある。ただ、行かなければ分からないことはたくさんあると思います」とは、経験した者にしか語れない言葉だろう。

「しっかり準備しながらオファーを待ちたい」

コロナ禍以前のオフには、日本のプロ野球選手がこぞって渡米し、最新トレーニング施設の門を叩いた。同じ頃、米国を主戦場としていた田澤は筑波大でプロジェクトを開始していることは興味深い。

「最先端はアメリカかもしれないけど、日本にも素晴らしいメソッドを持った方々がいる。アメリカに負けない一流が揃っています。僕にはこのプロジェクトが合っていると思うし、本当に出会えて良かったと思います」

自分がプロになりたい場所として米国を選び、さらなる成長を求めてトレーニングする場所として日本を選ぶ。自分の気持ちに対して素直に行動する姿勢は、何年経っても変わらない。

投げる準備は着々と進んでいる。本格的なピッチングは始めていないが、「肩を作っている段階としては順調に仕上がっています」と話す表情は明るい。ただ、今季の所属先は決まっていない。

「オファーもいただいていないし、どこで野球をやりたいか、こだわっている場合じゃない。僕に選択肢が少ないことは自分でも分かっているので、必要とされるところがあればどこでも。筑波大でのプロジェクトをはじめ、お世話になっている方々のためにも、長く野球を続けたいと思っています。自分がこれだけ投げられるようになったという姿を見せたいので。しっかり準備をしながらオファーを待ちたいと思います」

もしオファーが届かなければ「その時は決断しなければいけないのかなと思います」とも言うが、サポートしてくれる人たちのためにも自らサジは投げない。35歳でもなお成長する姿を、マウンドで見せつけたい。

【動画】迫力満点の投球映像! 捕手目線で見る田澤純一のピッチングの様子

【動画】迫力満点の投球映像! 捕手目線で見る田澤純一のピッチングの様子 signature

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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