後継者難倒産は32件、「死亡」と「体調不良」で8割超【2022年1月】

 2022年1月に後継者不在に伴う『後継者難』倒産は32件(前年同月比39.1%増)で、2021年11月以来、2カ月ぶりに前年同月を上回った。また、負債1,000万円以上の倒産(452件)の7.0%(前年同月4.8%)を占め、構成比は1月では初めて7%台に乗せた。
 産業別では、最多は卸売業の7件(前年同月4件)で、『後継者難』倒産の全体の21.8%を占めた。以下、建設業(前年同月3件)、製造業(同1件)、サービス業他(同7件)が各5件の順。
 資本金別では、1千万円以上が17件(前年同月比54.5%増、構成比53.1%)と、半数以上を占めた。負債額別は、1億円未満が23件(前年同月比64.2%増)で、全体の71.8%を占めた。ただ、5億円以上が1件(前年同月ゼロ)と、2年ぶりに発生した。中小規模でも、事業承継が深刻な経営課題の一つに浮上している。
 また、代表者の「死亡」が17件(構成比53.1%)、「体調不良」が10件(同31.2%)と、この2要因だけで『後継者難』倒産の84.3%(前年同月82.6%)に達した。
 代表者の平均年齢は、2020年には62.49歳(前年62.16歳)と年々上昇している。中小企業ほど代表者が経営全般を担うことが多い。それだけにコロナ禍での業績悪化のなかで、後継者育成や事業承継への対応が後回しになりがちだ。後継者が不在の場合、代表者が急に亡くなったり、病気や体調不良に直面すると、たちまち事業運営に支障が生じやすい。コロナ禍を背景に、事業承継が重大な経営リスクになったとみるべきだろう。

  • ※本調査は「人手不足」関連倒産(後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰)から、2022年1月の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)を抽出し、分析した。

『後継者難』倒産32件、倒産全体の7.0%を占める

 2022年1月の『後継者難』倒産は、32件(前年同月比39.1%増、前年同月23件)で、2カ月ぶりに前年同月を上回った。『後継者難』倒産は、負債1,000万円以上の倒産全体(452件)の7.0%を占め、前年同月の4.8%から2.2ポイント上昇。初めて7%台に乗せた。
 後継者の「有無」は、金融機関だけでなく、取引企業でも与信上の重要な判断材料の一つになっている。取引企業の代表者が不測の事態に直面した場合、事業継続が難しくなったり、サプライチェーンに支障を来して円滑な生産活動に影響が及ぶ可能性もある。
 長引くコロナ禍で業績回復が遅れ、後継者育成や事業承継への準備が後回しの中小・零細企業は少なくない。また、高齢の代表者ほど長期的な経営ビジョンを打ち出せず、思い切った先行投資も出来ないまま、生産性や収益力が低下し事業継続へのリスクが高まっている。

後継者難

【要因別】「死亡」と「体調不良」で8割超

 要因別では、最多は代表者の「死亡」などの17件(前年同月比30.7%増、前年同月13件)。1月としては、2年ぶりに前年同月を上回り、調査を開始した2013年以降、最多の2018年に並んだ。『後継者難』倒産の半数以上の53.1%を占め、前年同月(56.5%)から3.4ポイント低下した。ただ、2年連続で構成比が50%を超えた。
 また、「体調不良」は10件(前年同月比66.6%増、構成比31.2%)で、2年ぶりに増加した。
 代表者などの「死亡」と「体調不良」は合計27件(前年同月比42.1%増、前年同月19件)で、『後継者難』倒産の84.3%(前年同月82.6%)を占め、過去最多を記録した。
 このほか、「高齢」は5件(前年同月比66.6%増、構成比15.6%)で、2年ぶりに前年同月を上回った。

後継者難

【産業別】10産業のうち、6産業で増加

 産業別は、10産業のうち、金融・保険業、不動産業、情報通信業、サービス業他を除く、6産業で前年同月を上回った。
 最多は、卸売業の7件(前年同月比75.0%増、構成比21.8%)で、2年ぶりに前年同月を上回った。
 このほか、建設業5件(前年同月比66.6%増)、製造業5件(同400.0%増)、運輸業4件(同100.0%増)は2年ぶり、小売業3件(同50.0%増)は3年ぶりに、それぞれ前年同月を上回った。
 また、農・林・漁・鉱業1件(前年同月ゼロ)は、1月としては2014年(1件)以来の発生。
 一方、サービス業他は5件(前年同月比28.5%減)で、3年ぶりに前年同月を下回った。金融・保険業(前年同月1件)と情報通信業(同1件)はゼロ。
 業種別では、飲食料品卸売業が5件(前年同月比66.6%増、前年同月3件)、印刷・同関連業が2件(前年同月ゼロ)、 機械器具小売業2件(同1件)。飲食業(同2件)、金属製品製造業と汎・生産・業務用機械器具製造業、輸送用機械器具製造業、機械器具卸売業、医療,福祉事業が各1件(同ゼロ)だった。

後継者難

【形態別】破産の構成比が96.8%と、過去最高に

 形態別の最多は、「破産」の31件(前年同月比47.6%増、前年同月21件)。『後継者難』倒産に占める構成比は96.8%で、前年同月の91.3%より5.5ポイント上昇。1月としては過去最高を記録した。
 「会社更生法」は、調査を開始した2013年以降、発生がない。「民事再生法」は5年連続、「特別清算」は3年ぶりに、それぞれゼロとなった。
 『後継者難』倒産の大半は消滅型の「破産」で、後継者育成や事業承継への取り組みが遅れ、代表者の不測の事態で経営に重大な支障を来しやすいことを示している。

【資本金別】1千万円未満が半数以上

 資本金別では、1千万円以上は17件(前年同月比54.5%増)で、『後継者難』倒産に占める構成比は53.1%(前年同月47.8%)と、半数以上を占めた。
 一方、個人企業他を含む1千万円未満が15件(前年同月比25.0%増、構成比46.8%)だった。

【【負債額別】1億円未満が7割

 負債額別は、1億円未満が23件(前年同月比64.2%増、前年同月14件)で、2年ぶりに前年同月を上回った。 『後継者難』倒産に占める構成比は71.8%(前年同月60.8%)だった。
 内訳は、1千万円以上5千万円未満が12件(前年同月比33.3%増)、5千万円以上1億円未満が11件(同120.0%増)だった。
 このほか、1億円以上5億円未満が8件(同11.1%減)で、3年ぶりに前年同月を下回った。
 一方、5億円以上は1件(前年同月ゼロ)で、2年ぶりに発生した。

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