【津川哲夫F1新車私的解説】“ほぼFIAのベースモデル”を発表したレッドブル。その目的とポジティブな要素

 F1チームの先陣を切ってオラクル・レッドブル・レーシングの新車『RB18』の発表が行われた。しかし画面に現れた『RB18』はほぼFIAのベースモデルのままだった。もちろん、モノコックを始め内側部分は本物なのだろうが、エアロパーツの多くはリヤウイングに代表されるように、このままでは実戦で使えない代物であった。完全なモックアップではないのだろうが、肝心なパーツはすべてFIAのモックアップなのだ。

 それでも、サイドポッドのエントリーや後方アウトレットに若干の違いは見られるが、決してこのまま開幕を迎える“本物”ではないだろう。実際、インダクションボックスのロールフープ形状もFIAのベースモデルのままである。

レッドブル・レーシング2022年型F1マシン『RB18』

 現実的に考えれば発表そのものを真っ先に行い、レッドブルの露出度を狙ったスタンドプレイ……と言っては言い過ぎだが、最も重要なのは巨大なメインスポンサーにアメリカのIT企業オラクル・クラウド・インフラストラクチャーが決まったこと。つまり“軍資金はホンダ時代以上に確保した”と効果的にアピールしたかったのだろう。ホンダの撤退とは技術的な問題ではなく、ホンダとの経済的友好関係の終了を意味するので、その穴埋めができたことへのアピールの場だったと言っても良いのかも知れない。

レッドブル・レーシング2022年型F1マシン『RB18』発表イベント

 この発表会でクリスチャン・ホーナーは「新規則ですべてが新しく、白紙からの出発。このマシンは出発点であり、今シーズンは全戦で猛烈か開発戦争が繰り広げられるだろう。それも、技術とバジェットキャップの両面で厳しい規則の範囲内で行わなければならないため、今までと違った開発戦争となる」と語っていた。

 また、ヘルムート・マルコは発表会以前に「(発表会では)新車は見せない。開発のアップデートをバルセロナテストで実施し、2度目のアップデートは開幕戦で投入される」と語っていた。すでに2022年のチャンピオンシップは始まっており、レッドブルは発表会ですらディフェンディングチャンピオンへ向けた防御壁に使っているわけだ。

 スタート前から戦闘モードの角を突き出すレッドブル。2022年シーズンのマシン『RB18』がどれほど暴れ回るのか。または、それを征するマタドール(闘牛士)はどのチームになるのか……もちろん楽しみ以外の何ものでもない。

レッドブル・レーシング2022年型F1マシン『RB18』/フロント
レッドブル・レーシング2022年型F1マシン『RB18』

《プロフィール》津川哲夫(つがわてつお)
1949年生まれ。F1メカニックを志して1977年に単身渡英。トールマン、ハース、ベネトンなどのチームでメカニックを勤め、1990年シーズンでメカニックを引退。その後、F1中継でピットレポートやセッション解説、そして雑誌やwebメディアでメカニック経験を活かしたメカニカルな視点でF1の魅力を伝え続けている。

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