選手に「監督」とは呼ばせない 静岡初の“小学生女子チーム”が貫く指導方針とは

県内初の小学生女子チーム「静岡フューチャーズ」の花村博文監督【写真:間淳】

花村博文氏は女子児童だけの「静岡フューチャーズ」を2018年に創設

昨年は甲子園で初めて全国高校女子硬式野球選手権の決勝戦が開催されるなど、女子野球の熱が高まっている。この動きがサッカー王国の静岡県にも広がると期待して活動していたのが、県内初の小学生女子チーム「静岡フューチャーズ」を創設した花村博文監督。甲子園常連校でプロ野球選手も輩出する静岡商出身の指揮官はサッカー女子日本代表「なでしこジャパン」を参考にした指導方針を掲げ、選手からは「花さん」と呼ばれている。

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静岡県は男子だけでなく女子もサッカーが盛んで、特に高校は毎年のように全国大会で優勝を争っている。その「サッカー王国」で近年、女子野球が変わり始めている。東海大静岡翔洋高に県内で初めて女子硬式野球部がつくられ、他の高校にも創部の動きが広がっている。期待も込めて、この“風”を読んでいたのが女子だけの小学生野球チーム「静岡フューチャーズ」の代表も務める花村博文監督だ。

「将来的に静岡にも女子高校野球のチームができることを願っていました。その時に備えて、少しでも女子野球の裾野を広げたいと思っていました」

花村監督が女子野球に強い関心を抱いたのは2013年だった。世代を超えてアマチュアからプロまで全国の女子チームが頂点を争う大会「ジャパンカップ」に衝撃を受けた。2013年の第3回大会は静岡市の草薙球場が会場だった。東京のチームに所属する知人の娘が出場したため、花村監督は初めて女子野球の大会を観戦。試合が始まってすぐにプレーの質に驚いた。「スピード感があって、本当に女子がプレーしているのかと想像をはるかに超えるレベルでした。守備は柔らかさもあって美しかったですね」。感動と同時に湧き上がったのは「なぜ静岡には女子野球チームがないのか」という思いだった。

静岡県内で女子野球の動きをつくれば、輪が広がっていくはず。少年野球チームの指導者を経て、花村監督は2018年4月に小学生の女子軟式野球チーム「静岡フューチャーズ」を立ち上げた。選手2人から始まったチームには現在、小学1年生から6年生まで13人が所属している。ほとんどがチームに入るまで、グラブやバットに触れたことがない。

花村監督が掲げる方針は「うまい選手を育てるよりも、野球好きを増やす指導」【写真:間淳】

選手は花村博文監督を「花さん」と呼ぶ

花村監督が掲げる方針は「うまい選手を育てるよりも、野球好きを増やす指導」だ。自身は静岡商硬式野球部でプレー。甲子園に何度も出場している名門校で、元巨人・新浦壽夫さんや元近鉄・大石大二郎さんら多数のプロ野球選手を輩出。最近では2020年ドラフト6位でDeNAに入団した高田琢登投手が卒業生だ。当時は全てを野球に捧げるような生活で厳しさは当たり前だった花村監督だが、「小中学生の女子には兄が野球をやっていて、野球に対して怖いイメージを持っている子もいます。指導者の罵声や保護者の当番制など野球のマイナスイメージを払拭したいんです。野球は本来、楽しいものですから」と語る。

野球に親しみや楽しみを持ってもらうために、選手には「監督」ではなく「花さん」と呼ばせている。ヒントにしたのは、サッカー女子日本代表の佐々木則夫元監督のチームづくり。選手たちから「則さん」と親しまれ、なでしこジャパンを2011年の女子ワールドカップで初優勝に導いた。花村監督は「引き締めるべきところは引き締めながら、選手との距離が近いなでしこジャパンは楽しそうな雰囲気でした」と参考にしている。

指導者が選手を押さえつけないために、花村監督は「選手が嫌と言える環境づくり」を大切にしている。練習では「キャッチボールが終わったら、何人かのグループになって中継の練習」と指示を出すと、選手から「えー、やりたくない」と声が飛ぶこともある。そんな時、指揮官は「それなら、自分たちに足りない部分を考えて別の練習にしてもいい」と答える。

選手たちはゴロを転がして捕球の練習をしたり、遠投をしたりする。ある程度の時間が経つと、自ら中継の練習をするグループも現れる。花村監督は和やかな楽しい雰囲気をつくるために音楽をかけて練習しているが、選手から「この曲は今の練習に合わない」と別の曲への変更を求められる時もある。

「野球の基本や礼儀を指導する意識を捨てたらいけませんが、子どもたちが意思表示する環境は必要だと思います。選手たちには考えて動けるようになってもらいたいです」

静岡県には小学生や中学生にも女子野球チームをつくる動きが出始めている。花村監督が率いる県内初の小学生女子野球チームは「サッカー王国」に新しい風を吹かせている。(間淳 / Jun Aida)

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