<書評>『琉球沖縄仏教史』 エイサーから弾圧事件まで

 『琉球沖縄仏教史』という表題の背表紙を書店で見て、「なんか難しそう、私には関係ないわ」と通り過ぎないでほしい。例えば「エイサー」を「念仏(踊り)」の一つとして読み解き、多くの梵鐘(ぼんしょう)の銘文に関わった芥隠(かいいん)という僧侶と尚真王との関係などについての考察など、史資料を現代語訳して紹介し、全体に話し言葉のような文章で書くことにより、琉球沖縄の「仏教史」に関してとらえやすく記述されているからだ。
 著者は、これまで『琉球宗教史の研究』『沖縄仏教史の研究』という大著を刊行されてきた。古琉球期の王府の外交や国家鎮護と結びついた仏教と僧侶たち、琉球と日本の間を行き来する僧侶たちの役割など、国家との結びつきを強め、民衆から離れていく仏教の姿と、それに続く近世琉球の国家儀礼での禅家(禅宗)と聖家(真言宗)の二宗体制の確立と変遷、また首里士族との文化面での交際、祈祷(きとう)や占いをする僧侶の姿などを描き、琉球での最大の宗教弾圧事件といえる王国末期の仲尾次政隆やその周囲の人々、薩琉間を行き来する船頭たち、とくに辻の女性たちが処罰対象となった「真宗法難事件」を詳細に研究された論考などと、研究は幅広い。この事件に関連して、近年、九州における新資料の発見、確認などがあり、研究が進みつつある。
 また、戦前からの琉球・沖縄の仏教史に関連する研究者の論考も再検討しつつ、著者の導く仏教史の世界を読み、知り、考えることができる。通史として頭から読み進めるのが普通だが、どの時代、どのテーマから読んでも、前後を行き来しつつ、読み進めることができる。
 琉球・沖縄の仏教史関連の研究は、新史料の確認や民俗学の調査、考古学による寺院跡の発掘などと、進展していくと思われる。この本から始めて、先に挙げた著者の専門書に挑むもよし、沖縄の仏教に関する多方面に及ぶ研究に進んでいく最初の一歩とするのもいいかもしれない。また、現在の到達地点を確認するための目印に振り返ってみるのもいいだろう。つまり、この本は琉球沖縄仏教史の入り口にも、出口にもなりうる本である。
 (小野まさ子・那覇市歴史博物館古文書解読員)
 ちな・ていかん 1951年具志川市(現・うるま市)出身。神戸女子大名誉教授。著書に「沖縄宗教史の研究」「琉球仏教史の研究」がある。

© 株式会社琉球新報社