日雇い勤務の医師夫婦「億ションを買いたい」1億円以上の住宅ローンを組める人って?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、35歳の日雇い勤務の医師の男性。妻も医師で、世帯の手取り月収は150万円ほどという相談者家族。子どもが大きくなる前に、いい家に引っ越したいといいますが、希望するエリアの物件は軒並み1億円を超えるそう。相談者は1億円以上のローンを組める? FPの渡邊裕介氏がお答えします。


一言だと、億ションを買いたい、です。

夫婦ともに医師です。自分は日雇いですが、だいたい月の手取りは100万円くらい、妻も社会人学生ですが50万円くらい稼いでいるかと思います。

家賃20万の賃貸を借りていますが、子どもが大きくなる前に、いいところに引っ越したい!新築でも中古でもいいのですが、引っ越しを検討しています。今は2LDKに住んでいて、買うならば都内3LDKを考えています。買いたいなと思う場所は軒並み1億2,000万円〜1億5,000万円くらい必要で、及び腰になってしまっている現状です。

現実的には6,000〜9,000万くらいのマンションかと思っていますが、一方で世間よりは多少不安定ながら、収入はあるので、とりあえず夫婦合算でローンを組んで買うことは可能ですが、これが現実的なのかがわかりません。

子どもは中学くらいから私立に通わせるつもりですが、それまでは公立+塾のつもりです。自分の年収は今後1,000〜1,500万円、妻は休む時期もあるかもしれないですが1,000万前後は稼ぐ予定です。子ども関連を含む今後の支出の予想がつかないこと、どれくらいの年収があればこのような物件を買うことができるのかがわからなかったこともあり、この度相談いたしました。我が家は億ションを買うことができそうでしょうか。

介護などは必要になる可能性はありますが、現状は両方の両親ともに健康です。

【相談者プロフィール】

・相談者:男性、35歳、医師(日雇い)

・配偶者の年齢:30歳、医師(社会人学生) ・子ども:1歳

・住居の形態:賃貸(東京都)

・毎月の世帯の手取り金額:150万円(相談者100万円、妻50万円)

・ボーナス:なし

・毎月の世帯の支出の目安:40万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:20万円

・食費:5万円

・水道光熱費:3万円

・教育費:5万円

・通信費:1万円

・お小遣い:残り

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:50〜70万円(自分は50万円プラスアルファ程度、妻の額は不確かです)

・現在の貯金総額(投資分は含まない):1,000万円(自分)、2,000万円(妻)、500万円(共用)

・現在の投資総額:1,500万円(自分)

・現在の負債総額:0円

渡邊:こんにちは、ファイナンシャルプランナーの渡邊です。医師の住宅購入に関するご相談です。金額として億を超えるマンションを検討されています。ご相談者は勤務医ではなく、個人事業としてお医者さんをされています。個人事業主が住宅ローンを組む際の注意点などを抑えながら考えていきましょう。

希望する物件価格は現実的?

まずは、希望されている1億2,000万円〜1億5,000万円程度の物件価格が、ご相談者にとって適正なのかについて、現在の収入をもとにみていきましょう。

収入に対して住宅ローンを返済する金額の割合を「返済比率」と呼びます。一般的には、この返済比率が20~25%程度に収まると、安心して返済できる範囲と言えるでしょう。ご相談者の世帯年収が若干の増減はありそうですが2,000万円と仮定すると、

2,000万円×20%~25%÷12か月=33万3,333円/月~41万6,666円/月

マンションの場合は、管理費や修繕積立金も考慮した方が良いので、3~4万円/月程度と考えると約30万円/月~40万円/月の住宅費用が目安となります。

現在のご年齢が35歳ですので、仮に65歳までの30年間、固定金利1.35%として考えると、

借入金額:1億2,000万円 金利:1.35% 期間:30年 返済金額:40万5,562円/月

このあたりが借入金額の目安となります。

1億円以上の住宅ローンの借り入れについて

では、そもそも1億2,000万円の住宅ローンの借入れが可能なのでしょうか。

メガバンクを中心とした大手金融機関の多くは、住宅ローン借入金額の上限額を「1億円以下」としています。また、長期固定金利の代表格の「フラット35」は借入限度額が「8,000万円以下」となります。筆者の調べによると、借入限度額を2億円や3億円と設定している金融機関や、上限5億円としているところもあります。上限額1億円としていても、窓口で相談することで上限額引上げが可能な銀行もあります。ただし、融資の条件が厳しかったりと、注意が必要です。

では、個人事業主であるご相談者の住宅ローン借入れは可能なのでしょうか。個人事業の方が住宅ローンを組む際の審査ポイントは大きく5つです。

1.継続的な安定収入があるかどうか
2.収入に対しての返済比率
3.信用情報
4.物件の担保価値
5.健康状態

審査の5つのポイントを解説

【1.継続的な安定所得と2.所得に対しての返済比率】

個人事業の場合、金融機関の多くが3年間の継続的な安定した所得があるかどうかを条件としています。少なくとも、直近3期が黒字であることが求められます。また、借入可能額を決定するための返済比率は、売り上げから経費を差し引いた「所得」で審査されます。個人事業の方の中には、税金対策のために経費を多く計上し所得を抑えている方もいらっしゃいますが、税金上のメリットはあっても、住宅ローンの審査上は不利となってしまいます。

一般的には、返済比率を35%に設定している金融機関が多いです。年間の返済額が3年間の所得平均額の35%以内であることがひとつの目安となります。

なお、医師や士業の方など、ある程度安定した収入が予想される業種については、審査基準が緩和されるケースもありますので、金融機関に相談しながら進めると良いでしょう。

【3.信用情報】
所得税や住民税などの税金や社会保険料などの滞納があると審査に大きく影響します。
また、事業用ローンや自動車ローン、クレジットカードのキャッシングなどの返済状況などの「信用情報」もチェックされます。もし滞納や債務整理などの履歴があると、審査が厳しくなります。

【4.物件の担保価値】
審査項目のひとつに購入する物件の担保価値も入ります。万が一、住宅ローンを返済できなくなった場合に備えて担保に入れるためです。築年数が古い物件などは、担保価値が低いことで住宅ローンが組めない場合もあるので注意が必要です。ご相談者の場合はそこまで築古ではなさそうですので、問題ないかと思われます。

【5.健康状態】
住宅ローンを組む際に、基本的には「団体信用生命保険(団信)」への加入が条件となります。団信は、住宅ローンを組んだ人が万が一亡くなったりした場合に、それ以降のローンの支払いが免除される保険です。健康状態が悪く団信に加入できない場合は、住宅ローンを組めません。その場合は、団信加入が条件でない「フラット35」が選択肢になりますが、団信に加入しない場合は、万が一の場合のそれ以降の返済について考えておかないといけません。

返済プランは今後の働き方を鑑みてしっかり検討を

個人事業主の方の場合審査が通りやすいのは「フラット35」となります。固定金利を希望の場合はフラット一択で良いですが、変動金利も含めて考えたい場合は、まず銀行の事前審査を行ってみてください。

ご相談者は、世帯収入で見るとある程度余裕があるように思えます。返済比率から考えると1億2,000万円以内が適正だと考えられますが、ご自身や妻の今後の働き方や収入の変化、お子さまの成長に伴う支出の増減によって返済計画が変わってきますので、今後のキャリアプラン及びライフプランと合わせて検討しましょう。住宅ローンの借入れ先も、「フラット35」を活用するのかどうかでも借入れ上限額が変わってきますので、借入可能額をもとに手元資金から頭金としてどれくらい準備するのか、教育費とのバランスを見ながら準備することが重要です。

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