通算犠打ゼロの宮崎でも送りバント “琢朗イズム”注入のDeNAにOBが期待するワケ

DeNA・石井琢朗野手総合コーチ【写真:中戸川知世】

シーズン打率3割4回、通算犠打ゼロの男も例外ではない

三浦大輔監督就任1年目の昨季は最下位に沈んだDeNA。しかし、現役時代に横浜(現DeNA)、ヤクルトなど4球団で計21年間捕手としてプレーした野球評論家・野口寿浩氏は、沖縄・宜野湾キャンプを取材し、明るい兆しを見て取った。石井琢朗氏が野手総合コーチとして14年ぶりにチームに復帰し、早くも“琢朗イズム”が浸透しつつあると言う。

13日に1軍の宜野湾キャンプを訪れた野口氏は、実戦的な「ケース打撃」を見て驚いた。無死一塁の場面で宮崎敏郎内野手に対して送りバントのサインが出て、これを1発で決めたのだ。宮崎は昨年までのプロ9年間で首位打者1回、シーズン打率3割4回を誇る好打者で、今年から新たに6年総額12億円プラス出来高(金額は推定)で大型契約を結んだ。プロ入り後、1軍で犠打は1本も記録していない。

野口氏は「たとえ宮崎でも今年はバントがある、という首脳陣の意志を込めた練習だったと思います。練習とはいえ全選手がその姿を見ていれば、意識の方向は変わります」と評した。

今年のDeNAには石井コーチのほかにも、鈴木尚典打撃コーチ、斎藤隆チーフ投手コーチ、相川亮二バッテリーコーチらOBが復帰。特に石井コーチは、現役時代に俊足巧打の内野手として通算2432安打、最多安打2回、盗塁王4回を誇り、引退後も広島、ヤクルト、巨人でコーチを歴任。各球団から引っ張りだこの名伯楽だ。

DeNA・宮崎敏郎【写真:荒川祐史】

「極論を言えばノーヒットで点を取りたがる」

2018年にはヤクルトで、石井コーチが1軍打撃コーチ、野口氏が1軍バッテリーコーチを務めた。「琢朗さんは、極論を言えばノーヒットで点を取りたがる人です。理想は四球で出塁した走者に二盗させ、送りバントもしくは進塁打で走者を三塁に進め、内野ゴロか外野フライで1点を取ることだと思います」と野口氏は解説する。

昨年のDeNAはリーグ2位のチーム打率.258、同2位の559得点を誇ったが、決して効率のいい攻撃とはいえなかった。チームの盗塁数はリーグワーストの31。犠打もリーグ5位の81にとどまった。「シングルヒットが4本出るか、走者をためて誰かが一発を打つ以外に、ほとんど得点パターンがなかった」と野口氏。そのDeNA打線を石井コーチが変えようとしている。

一方で野口氏は「宮崎や柴田(竜拓内野手)は1度で決めていましたが、それ以外の小技を求められる立場の選手が結構失敗していたのが気になりました。バントを失敗したり、ヒットエンドランの場面で空振りしたり、一、二塁間への進塁打が求められている場面で遊ゴロを打ったりしていました」と指摘。「もっともっと練習していく余地があります」と課題を挙げた。

能力が高い打者が多いだけに、つながりが生まれれば得点力はさらにアップする。野口氏が「投手陣がある程度整備されれば、今年は優勝争いに絡んでもおかしくない。それくらいの戦力だと思います」と高く評価するゆえんだ。“琢朗イズム”が浸透すればするほど、今年のベイスターズファンは大きな夢を描くことができそうだ。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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