データでみる都道府県のジェンダー平等(1) 教委の女性管理職15%、登用阻む長時間労働

 都道府県教育委員会事務局の管理職に、女性の登用が進んでいない。内閣府の調査では、わずか15・8%。教委は学校でのいじめや性暴力への対応、教員の研修などを担い、地域の教育の「司令塔」だ。だが、長時間労働になりがちで、それが女性登用の障壁となっている。

 「教員による児童生徒への性暴力防止法」が昨年成立するなど、教育現場のジェンダー平等が鍵となる施策も多く、登用促進は喫緊の課題だ。(共同通信ジェンダー問題取材班)

 ▽教員の「出世コース」

 「男ばかりで、深夜まで働くこともざら。性別に関係なく力を発揮できる仕組みになっていないのは大きな問題」

 西日本の教委に勤務経験がある文部科学省の男性中堅職員はこう話す。教委事務局には、出向した教員や自治体職員らが、教育課程などについて学校現場に指導・助言する指導主事や事務職員などとして配置される。

 教員にとっては「出世コース」とも言われ、学校現場に戻った後は校長や教頭になる例が多い。2021年度の政府の男女共同参画白書は、女性が管理職選考を受けやすい環境整備を求めている。

福岡市役所

 ただ、子育てや介護の負担が女性に偏っている現状では、意欲があってもハードルは高い。福岡市教委の担当者は「管理職になるタイミングと子育てが重なり、避けられる傾向がある」と話す。

性別で偏りがちな役割分担の見直しとともに、仕事と両立できる働き方が求められている。

 ▽大きい地域差

 

 内閣府は毎年、都道府県教委で課長級以上の管理職について女性登用の状況を調査している。21年4月時点の最新結果で全国平均は15・8%。最も高率の岐阜でも29・9%と、3割を切っているのが現状だ。静岡29・6%、奈良28・6%と続き、20%台は計14都県。

 1位の岐阜は87人中26人が女性だ。ただ、うち19人は県立学校で学校の運営管理に当たる管理職(事務長)に就いており、残業時間は少ない傾向にある。

 2位の静岡は「ロールモデル」となることを期待して、積極的に女性を登用。女子が被害に遭うことが多い性暴力の防止策を議論する際、「メンバーが男性に偏らないようにした」(担当者)という。その結果、教員や臨床心理士らで構成したチームは過去の事例を検証し、性暴力被害から1~2カ月を過ぎると発覚まで長期化する傾向があることを確認。教委による児童生徒を対象にしたアンケートの実施につながった。

 一方、最も低いのは秋田のゼロ。千葉2・6%、群馬3・3%と、地域差も大きい。最下位の秋田は事務長を管理職から除外して計算しており、他県同様に事務長を計上すると女性割合は10%になる。

 ▽尊厳に関わる問題

 ジェンダー平等は教育現場の課題そのものだ。大学医学部の入試で女子を不利に扱っていたことが近年、判明したほか、校則で髪形を不合理な男女別で規制している学校もある。東京都教委は全国で唯一、都立校全日制普通科の定員を男女別にしていたが、批判の高まりを受けて段階的廃止を決めた。

 福岡市は市立中学69校のうち、8割超の58校が男女別に髪形を規制していたことも福岡県弁護士会の20年の調査で判明した。弁護士会は21年2月、県や市の教委に不必要な男女分けをやめるよう求める意見書を出した。

福岡市教育委員会の担当者(左)に意見書を提出する福岡県弁護士会の担当者=2021年2月

 教員による児童生徒への性暴力対策の観点からも、女性管理職の増加は急務だ。21年5月に成立し、今年4月に施行される「教員による児童生徒への性暴力防止法」は、教員による性暴力禁止を明記した。21年12月に公表した指針案では、防止のため教員研修の充実や児童生徒への定期的なアンケートといった、被害を早期に訴えやすい体制作りを教委や学校に求めている。

 被害があると思われる時は、学校や教委は子どもへの負担に配慮しながら、警察とも情報共有を図り、子どもや保護者に必要な保護・支援をすることとしている。

 育児中の福岡県立高の40代女性教諭は「子どもたちも多様化している。管理職の人材が偏っていれば、現場や時代に合わせた柔軟な対応ができないのではないか」と指摘する。

 日本大の末冨芳教授(教育行政学)は、教育現場でジェンダー平等を実現し、性差別や性暴力をなくすことは「人間の尊厳に関わる問題」であり、対応を急ぐべきだと指摘する。制度設計を行う教委の方針は、学校の意思決定や子どもの意識形成にも影響は大きいと説明し「教委だけでなく、学校の現場でもジェンダーバランスを考慮し、管理職を男女両方にするといった登用策を進めていくことが重要だ」と訴えた。

 ▽多様な経歴、登用に工夫を

 現状と課題について、山形大の河野銀子教授(教育社会学)に聞いた。

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 都道府県によって教育委員会事務局の組織編成や管理職の位置付けは異なるので一概には言えないものの、女性管理職が15%というのは少なすぎる。数の不均衡だけではなく、教員のキャリア形成や多様な教育の在り方といった点でも問題と言える。

 教委で働くことは、子どもたちに接する日常の行為がどんな文脈にあるのかを俯瞰(ふかん)し、都道府県の教育行政を考える機会になる。教員の経験の積み方は自治体や学校種ごとに方針が異なるが、教委を経て教頭や校長職に就くケースは多い。こうした経験が男性に偏ると女性のキャリア形成を閉ざしてしまうだろう。

 学校外の出来事への危機管理など、教育現場は多くの仕事を求められる。長時間労働を美徳とする文化は見直されつつあるが、介護や子育ての負担が重い女性は管理職を避けざるを得ない。働きにくい構造を本質的に変えなければならない。

 学校の管理職登用では、推薦制を用いると女性割合が高くなることがこれまでの調査で分かっている。候補を2人にすれば男女各1人を選ぶ例も増える。多様な経歴を持つ人が管理職になれる仕組みが必要で、その仕掛けは工夫できる。

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 かわの・ぎんこ 1966年生まれ。徳島県出身。専門は教育社会学。編著に「女性校長はなぜ増えないのか」

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