阿佐海岸鉄道DMV乗車記~全鉄道攻略合宿Plus~

先月末の日曜日に私は待ちに待った阿佐海岸鉄道DMVに乗車してきました。今回はそのDMVについての簡単な説明とDMV乗車に乗車した時の出来事についてご紹介します。

阿佐海岸鉄道、そしてDMVとは?

阿佐海岸鉄道は、JR牟岐線阿波海南駅から甲浦までの鉄道区間(阿佐東線)と、阿波海南文化村から阿波海南駅、甲浦から道の駅宍喰温泉、そして海の駅東洋町から高知県の海の駅とろむまでの複数のバス区間を所有する鉄道です。そしてこの会社が3台所有しているDMV(DualModeVehicle)は、線路と道路両方を走行することが出来る世界初の乗り物です。本来JR北海道で独自に開発していたものですが、実用化したのはこの阿佐海岸鉄道が初めてです。詳しい説明は阿佐海岸鉄道公式サイトをご覧ください。

乗車の記録

筆者は既に鉄道区間を2019年に乗りつぶしていましたが、DMV化に伴い新たに追加されたバスモード区間も乗りつぶすために再び室戸へ向かう事にしました。しかし一日だけでは全区間乗りつぶす事は不可能なので、まずは室戸方面の区間を最優先として2019年の時と同じく高知県側から攻略することにしました。

夜行バスで2年ぶりの高知入り

高知へは飛行機で行っても良かったのですが、月末という事で使える資金に制限があったことや、久しぶりに高知に行くのだから土佐くろしお鉄道にも乗りたいというのもあって高知へは夜行バス(鳴門で乗り継ぎ)を使う事にしました。

バスは時刻通り高知駅に到着。ここからごめんなはり線直通列車に乗るのですが、しばらく時間があったので朝飯でも食いながら時間を潰します。そして残りの時間で高知駅にやってくる列車を何両か写真に撮ったりもしました。

そうこうしているうちに目当ての列車が到着。土佐くろしお鉄道の9640形気動車です。土佐くろしお鉄道のごめん・なはり線は一部の普通列車がJR高知駅まで乗り入れることがあるので時間が合えば奈半利まで乗り換えなしで向かうことが出来ます。しかしこの車両、整備してから間がないのか足回りが隣のJR車両よりも綺麗に見えます。

発車時刻が来たのでこの車両に乗り込んでまずは奈半利駅を目指します。土佐くろしお鉄道ごめんなはり線は正式には阿佐線と言い、阿佐海岸鉄道阿佐東線と共に土讃線後免より安芸・奈半利・室戸を経て牟岐線海部駅まで至る壮大な路線として計画されていました。

奈半利駅の車止め

しかし国鉄再建法で建設が一時凍結し、第三セクター方式の土佐くろしお鉄道の路線として建設が再開されるものの奈半利から甲浦までの区間は結局建設されることはありませんでした。ちなみにこのごめんなはり線は、鉄道建設公団で定められた路線規格の一つ、AB線規格で建設・開業した最後の路線でもあります。

奈半利駅に到着したら今度はバスに乗り換えて海の駅とろむを目指します。といってもこのバスは直接とろむに向かうわけでは無いので、とろむへの最寄りバス停となる室戸営業所で下車して徒歩で向かうことになります。海の駅、というくらいだからもしかしたら何か飲食店でもありそうだな、時間的にも丁度いいしそこでお昼にしようか、と考えていましたが、正直言ってこの判断は失敗でした。

とろむ、皆無、詰む。

寂しい漁港、だだっ広い駐車場、飲食店(?)跡地、思ったより小さなドルフィンセンターと簡単な待合室。ここが海の駅とろむだという事を認識するのは少々時間を要しました。そして、飯でも食おうかなんて甘い見立てでやってきた自分がいかに調査不足だったかを後悔しました。

海の駅は道の駅と同じものだ、と考えていた自分が全部悪いのです。しかしここまでとは流石にイメージのギャップが大きすぎて一瞬場所を間違えたか、と地図を再確認しました。しかし、待合室の前にあるDMVののぼりと、室内に掲げられてあったDMVの時刻表が、ここがとろむであるという何よりの証拠でした。

幸い自販機はあったので飲み物で空腹をごまかしながら、携帯の充電をしてDMVを待つことにしました。ところが・・・

「おお神よ、なぜあなたはそのようなむごいことをなさるのです。」

よりによってこのタイミングで、充電用のアダプターが根元からぽっきり折れてしまったのです。

暇つぶしに使うからとバッテリーはたっぷり入れてきたつもりでした。しかもこの待合室にはコンセントがありました。しかし一番肝心な部分が破損してしまえばどうにもできません。詰みです。40%もない充電を少しでも節約するために、DMV到着までの一時間、ただおとなしくしているしかありませんでした。おそらく筆者が今年で一番長く感じた一時間だと思います。

世界初にお立合い

待ちに待ったDMVがとろむにやってきました。阿佐海岸鉄道が所有する3台の内の一台、「すだちの風」を名乗る緑のDMVです。DMVDMVと大げさに言われていますが結局はマイクロバスと大差ありません。しかし普通のマイクロバスとはどこか違った雰囲気があったのは確かです。何枚か写真を撮った後は何もできないので甲浦までおとなしく寝ることにしました。

前回来たときはこの室戸ジオパークセンターで乗り継いだのですが、今回は通過するだけです。とろむや室戸岬から何人か乗客を拾ったDMVは、ここから海の駅東洋町までノンストップで国道55号線を突っ走ります。

海の駅東洋町です。丁度良い風が吹いているからか、サーファーが少なからずいたのが印象的でした。正直言うととろむより海の駅していたと思います。しばらく時間を置いた後、DMVは国道から離れて山側の甲浦駅を目指して突っ走ります。そして・・・

見覚えのある駅舎にやってきました。甲浦です。DMVはループ線を回って甲浦駅の高架線へと進入します。いったんバスモードのままで客扱いを行った後、前方と後方についているガイドの鉄輪を下ろし、確認作業を終えた後はそのままスムーズに線路を走りだします。モードチェンジの際に音楽が流れるのですが、これまたにぎやかな選曲で楽しい気分にさせてくれます。

バスモード

鉄道モード

上の写真がバスモードで、下が鉄道モードの様子です。アームの関係で車両が少し上を向く恰好になるのが鉄道モードの最大の特徴でもあります。車両はこのまま阿波海南方面に向かうのですが、予約の関係で私は一旦宍喰駅で下車しました。

宍喰で命拾い

宍喰駅で改めて鉄道モードのDMVを撮影したのですが、いくら改造したとはいえマイクロバスが線路の上を走っている姿というのはとてもシュールです。車輪を収納する関係上全面が少し出っ張った姿に改造されているのですが、その恰好はどこか昔のボンネットバスを思い起こさせます。

さて、宍喰で降りた時既に携帯の充電は5パーセントを切っており、このままでは阿波海南はおろか海部まで持つかどうかも怪しくなっていました。ですがここで嬉しい誤算。なんと宍喰駅にはコイン式充電器が設置されていたのです。阿佐海岸鉄道には申し訳ないのですがまさかこんな田舎駅に設置されているとは思っていませんでしたので意外でした。危うく命拾いした私は早速充電を行い、充分なバッテリー残量を確保しつつ次の便を待ちました。

線路絶てども夢絶たず

宍喰から阿波海南までは通称「未来への波乗り」と呼ばれている青いDMVに乗車しました。2019年当時は阿佐海岸鉄道は海部駅までで、阿波海南ー海部間はJR牟岐線だったのですが、DMVのモードチェンジに必要な土地を確保するために、地上駅の阿波海南までが阿佐海岸鉄道に転換されています。とはいえこのボンネットバス風の車両が何食わぬ顔で線路を走る姿は、かつてフランスを走り回っていたゴムタイヤ車両、ミシュリーヌに似ていると思いませんか?

これは海部駅名物(?)の意味なしトンネルです。本来ここには崖があり、牟岐線はそこをトンネルで貫いて海部駅に進入していたのですが、宅地造成により崖が削られていくうちに崖そのものが消失してしまい、トンネルだけが残って今に至ります。

そしてDMVは終点、阿波海南駅に到着しました。DMVはここから右にそれて再度モードチェンジし、バスモードになったところで客扱いを行います。なお阿佐東線と牟岐線の境界駅をこの駅にずらす際、海部ー阿波海南間の線路はJRとの接続が切られています。即ち阿波海南ー甲浦間は完全に線路が独立していることになるわけですが、DMVとなった以上線路がつながっているかどうかは大した問題ではありませんね。

DMVは鉄道かバスかどちらに組み入れるべきかという議論が多々ありますが、私はあえて鉄道にカテゴライズしたいです。具体的には、「車止めを越えることが出来る唯一の鉄道車両」とでも言いましょうか。車止めが分断の意味ではなくなった、それだけでもDMVは大きな成果を残したと思います。勿論、運行上はモードチェンジの為に絶対越えてはならないのですがね。

後で調べたところ、阿佐海岸鉄道は阿波海南・海部・宍喰に有料充電器を設置しているのだそうです。阿波海南には無料WIFIもあるので、徳島側から向かったほうがトラブルは少なかったかもな、と思いました。とはいえ何かしらの事件があったほうが思い出に残るというのもまた事実です。そういった意味では今回の旅はとても充実したものだったと総括できます。

通称「阿佐海岸維新」と呼ばれている赤いDMVを撮れなかったのは名残惜しいですが、これ以上阿波海南に居座ると飛行機に間に合わないので、牟岐線に乗り換えて徳島へと向かいました。まだ乗れていないバスモードの区間があるのでその時にでも撮りに行きたいと思っています。

※今回は全区間通常料金で乗車しましたが、お得に済ませたい場合は4月から発売される四国みぎした55フリー切符がお勧めです。なおこの切符では海の駅とろむー海の駅海陽町の区間は乗車できないのでご注意ください。また、この切符でのDMVの座席の指定は出来ません。全区間自由席での利用となります。

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四国地方

【著者】ミシンロボ

日本全国の鉄道を「日帰り」で旅するライター。 日本全国の鉄道路線を完乗済みです。色々な鉄道の情報を独自の視点から発信します。

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