大石賢吾氏、初当選

 「歴史にイフ(もしも)はない」とは言っても、もしもあの時、あの決断や行動がなかったら-と、つい想像することがある。長崎県史を振り返っても、大きな決断の時があった▲長崎空港の建設のため、久保勘一知事は一升瓶を提げ、関係する住民を一軒一軒訪ねては飲んで、語って、説得した。住民が行政の長に直談判することはあり得ても、その逆はまず聞かない▲「県史に刻まれる手並み」と言っても、言い過ぎではないだろう。もちろん英断だけではない。石木ダムの強制測量(1982年)は、時の知事の「決断」が猛反発を招いて「懸案」に変形し、今も尾を引く▲その時々のトップの行動が積み重なって、県史が形づくられ、今がある。新幹線、石木ダム、諫早湾干拓-と、長い長い混乱や足踏みが続き、人口減少が著しい今、トップの手並みの一つ一つに県勢の浮沈が懸かる▲24年ぶりの保守分裂選挙になった知事選は、新人の大石賢吾氏(39)が初当選を果たした。停滞感、行き詰まり感が色濃い県政にぶつけた、世代交代と刷新の訴えが県民を動かしたと言うべきだろう▲明るい未来図を描く画家であり、精密な図面を書く設計士であり、自分から心を開いて語り手となり、聞き手にもなる。新しい知事の多彩な仕事師ぶりがこの先、問われる。(徹)

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